【異世界編】赴任先は異世界の魔法大学。初日の授業は『チェスト!』の否定から始まります。2
ここは帝立魔法大学の大講堂。
基礎講義なので、魔法大学に入学したての複数の科の生徒、200名ぐらいが座っている。
主人公はチョークを手に取り、黒板に自分の名前を書く。
『吉野千尋』
「日本国 海上自衛隊戦術指導教官、吉野千尋です。よろしくお願いします」
「帝国語もまともに語れん、田舎なまりの地球人(しかも子持ちのおんじょ)にないがゆえ教わらならんとごわすか!」
(訳:帝国語もろくにできない、田舎なまりの地球人(しかも子持ちのオバサン)に教わらなきゃいけないの?)
(※今後、異世界の不思議な魔法で鹿児島弁は標準語に変換されます)
この異世界にはテレビは無いが、もし千尋がこの世界でテレビでインタビューされたら確実に字幕を付けられるだろう。とはいえ、意思疎通自体は標準語にでは問題ない。
千尋は鹿児島市の生まれ育ちで、かなりの鹿児島なまりがある。赴任先ではあえて鹿児島訛りで喋るようにしているが、ここまでストレートに言われたことは一度も無かった。
(私、教官だよ? オイオイ、これが例のエルフ、シードアイランド家のご令嬢クリスタか……)
チラリと見ると、両隣に座っている従者が慌てている。
(メンドイし、放置だなこれ。従者がしっかりしてそうだし、後で実家に伝わって絞られるだろう……)
千尋は無視して講義を続ける。
「皆さんご存じだと思いますが、今から約190年前の1858年。安政の大獄から逃れるため、一人のサムライが地球の錦江湾で入水しました。しかし彼は死なず、この次元に流れ着いた」
「当時、この海域を支配していた巨大な海竜に対し、その男は魔力も魔法陣も一切使わず、ただ木刀を上段に構え『チェストォォォ!!』と叫んで海を割りました。それが、我が西郷帝国の初代皇帝にして建国の父、西郷吉之助です」
「おい、魔力無しの地球人! 軽々しく皇帝陛下の名前を口にするな!」
クリスタが吠える。
千尋はため息をつき、彼女の両隣の従者へ向けて(お前んとこのお嬢様、どうすんだこれ)と、魔力を纏わせた目線を送った。
左の従者は魔力無しのようで反応がない。しかし、右にいるエルフ顔の従者は気づいたようだ。
フェーズドアレイアンテナの原理を応用し、自分だけに向けられた鋭い魔力のビーム。お嬢様はそれに全く気づいていないこと。そして、目の前の地球人が、現地人でも使える者がほぼいない高度なテクニックを無言で使ってみせたことに。
「あの、吉野教官。それ、どうやったんですか?」
ふと、クリスタから左へ10列ぐらい離れた席の少女が手を上げた。
「君、名前は? あと『それ』とは?」
「坂元あゆみです!! 『それ』とは、シードアイランド伯爵家ご令嬢の両隣に魔力を飛ばしたやつです!」
(そこまで見えてるか。かなり優秀だな)
「坂元さん、君優秀ね。対潜航空科、来ない?」
「え!? いいんですか! 行きます、行きます! めっちゃ行きたいです!」
1年後の組み分け選抜結果が楽しみだ。千尋は内心で微笑み、講義を続行する。
「ご存じの通り、この世界は水と魔法の親和性が高すぎるため、水上艦は魔女の『上空からの爆撃』の的になり、存在できません。ゆえに、海戦の主役は海中に潜む『潜水艦』です。
まあ、初代皇帝ぐらいの魔力があれば、浅い位置の潜水艦なら沈めることはできるかもしれませんが……皆さんには無理だと思います」
「私ならば、沈めて見せますわ!」
まーた、例のお嬢様がうるさい。千尋は彼女を睨み、今度はピンポイントでその額に魔力をぶつける。
流石に実力差に気づいたのか、クリスタは恐怖の表情を浮かべて固まった。
「では、講義を終わります」
午後は3年生の対潜実習初日だ。沖に出るのが楽しみである。




