【西郷帝国建国編】海の底から届いた便り
異世界のサツマにて。
王となった男は、部下からの急報を受けて海岸に駆けつけていた。
そこはかつて、王自身が海からこの世界へと漂着した場所。
砂浜には、砲撃を受けて大破した巨大な船の残骸が打ち上げられていた。
沢山の遺体も流れ着いていたが、そのうちの3名が息を吹き返し、すでに診療所に運び込まれたと報告を受けている。
王は、部下が残骸から回収したという、英語の書き込まれた一枚の海図を手渡された。
部下は「この地域がこれほど精密に測量されているとは」と未知の技術に驚いていたが、王の反応は全く違った。
桜島。
磯(仙巌園)。
城山。
……間違いない。錦江湾であった。
「……薩摩、じゃ」
異国の紙に、異国の文字で描かれた故郷。
それは王が、この世界に流れ着いてから初めて手にした「故郷からの便り」であった。
故郷へ、帰れるかもしれない。
月照はどうなったか。大久保は元気だろうか。吉野の若も、元気でやっているだろうか。
砂浜に膝をつき、男は涙を流した。
しかし、ふと周りを見渡すと、そこにはこの世界の民たちがいた。
戦乱で住処を焼け出され、飢え、すがるように「王」を求める民たちの目が、彼を見つめていた。
その後、王は生き残った英国船員から直接話を聞いた。なんとかコミュニケーションは取れた。
彼らの話によれば、どうやら薩摩は英国と戦争をして、勝ったらしい。
これ以降、漂着した兵器を元手に、王の快進撃が始まるのだった。
流れ着いた蒸気機関を復旧させ、独自の蒸気船を建造し、王国はやがて巨大な『西郷帝国』へと発展していくことになる。
王は確信していた。大久保が上手くやったに違いない、と。
海で拾ったその海図は、王の執務室で生涯大事に飾られ続けた。
己が故郷へ「帰らぬ理由」を、決して忘れぬために。




