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【現代編】魚雷でラプターを落とす女。2

魚雷でラプター撃墜事件からひと月後。

海上自衛隊・鹿屋航空基地の会議室では、基地幹部と防衛省からやってきた背広組たちが、揃って深く頭を抱えていた。


理由は一つ。吉野千尋3佐に対する、国内外からの異常なまでのヘッドハンティングである。


米空軍からは「ぜひ教官として」、米海軍からは「P-8ポセイドンの戦術アドバイザーとして」、スカンクワークスからは「エリア51での極秘任務パイロットとして」、あろうことかNASAからは「次期月着陸船の船長として」。

国内に目を向けても、航空自衛隊が「ブルーインパルスと飛行教導群アグレッサーの特別席」を用意し、横須賀や呉の潜水艦隊からは「ウチの潜水艦艦長候補として総舵手をやってくれ」と、各所から熱烈なラブコールが殺到しているのだ。


「沢山のラブコールに、果ては月まで……。吉野3佐はかぐや姫ですか?

龍の首の玉でも用意させますか?」

鹿屋の群司令が、思わずふざけた調子でこぼす。


「まあ、彼女なら世界の海でも、月の海でも問題なく乗りこなすでしょう。なにせ『吉野の血』ですからね」

眼鏡をかけた防衛省の背広組の男が、静かに答えた。


「彼女の父は、鹿児島市の高校の同期で、上官でした、優秀なP-3Cパイロットでしたが、幕末史が好きな奴で、私は話を合わせるために必死に勉強しましたよそれ以外は無口な男でした、いまは退官し、鹿児島を起点に民間パイロットを、しかし血ですか…」

司令が返す。


「あら司令、ご自身の上官と部下なのにご存知ないのですか?

彼女の祖父はゼロ戦乗りであり、日本人初のファントムライダー。ブルーインパルスの創設メンバーで東京五輪を飛ばしたメンバーを育て、退官はその後は民間会社で日本初のジャンボジェットを日本へデリバリーした伝説の男です。

父はPS-1とP-3C乗りで、現在は現役の民間パイロット。

兄は護衛艦乗りのヘリパイ。そして……いや、これはやめておきましょう。とにかく、吉野の一族は我々海上自衛隊と日本政府にとって『大恩人』なのです」


背広組の男は眼鏡の位置を直し、声を潜めた。

男は眼鏡の位置を直した。


「とにかく、吉野の一族は、我々にとって大恩ある家なのです」


会議室の空気が、少しだけ重くなった。


「彼女を海自から……いえ、日本政府の手元から不用意に離すことは、国家としての損失です。各方面からのラブレターは我々が全力で握り潰していますが、さすがに“月に行けるかもしれない”などと聞けば、あの好奇心旺盛な彼女を引き留めるのは難しい」


「では、どうするおつもりで?」


背広組の男は、不敵に笑った。


「彼女に、最高級の謎をぶつけます」


「謎、ですか」


「ええ。命令では縛れない。待遇でも縛れない。ならば、知的好奇心で縛るしかないでしょう」


男は一枚の人事資料を机に置いた。


「菊池源吾。海外生まれですが、血統はこれ以上ないほど優秀です。顔も悪くない。少なくとも、第一印象で拒否されることはないでしょう。

それに彼ならば火鼠の皮衣は用意できます。」


「海外生まれなのに古風な名前ですな、しかし海外には火鼠っておるの?か、へえ~


そんな男で、吉野三佐が大人しくなるとは思えませんが」


「大人しくさせる必要はありません」


背広組の男は、静かに言った。


「首を突っ込ませればいいのです。あとは、彼女が勝手に深みに嵌まります」

用語解説

※スカンクワークス ロッキードマーチンの極秘兵器開発部門

※菊池源吾 西郷が奄美大島に流された時に使った偽名


あと、祖父のモデルは実在します、直接話を伺ったことがあります。かなりの昔の話です。

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