【異世界編】うっかたはバケモノか?(10)
現在、15時28分。
弾着まで、あと120秒。
トカラ列島の白波を蹴立てて25ノットで突進する護衛艦『つるぎ』のCIC(戦闘指揮所)は、それまで張り詰めた静寂に包まれていた。
『ピピッ――ピピピピピピピピ!』
アラームがCICの静寂を破る。
「正面、方位0-9-0! 超低空に微小ドップラー反応を探知! 高度30フィート、速度マッハ0.85、急速接近!ASMです。」
対空レーダー手が叫ぶ。
「艦長、4方向からきます、TOTの一発目です。両舷から1発ずつ、後ろ2発同時に着弾します。」
瀬々串が叫んだ。
「 短SAM(艦対空ミサイル)正面ASMへ二発ずつ発射、迎撃。
減速、ブリッジ取舵いっぱい方位0-0-0へ
主砲2-7-0方面 ファランクス SeaRAM迎撃準備、ほかの方向の短SAM外したら撃て」
艦長が冷静に指示をだす。瀬々串の言う通りに4方向からのTOTが来ると信じたようだ。
「短SAM正面サルボー(一斉発射)」
対空ミサイル担当員が、冷静に正面から来るASMへの短SAMを発射する。
前方のVLS(垂直ミサイル発射装置)のハッチが開き、一つのセルから4発のESSMが飛翔する。
「両サイド1発、後ろ2発、高度10フィート、速度マッハ0.85、急速接近!ASMです。砲雷長の予言の通りです。」
対空レーダー手が報告する。
「短SAMそれぞれ2発ずつ、落ち着いて処理しろ、訓練通りだ。」
艦長が落ち着いて指示をおこなう。
「短SAM 8発 サルボー」
前方のVLSのハッチが2つ開き、上空へ向けて、勢いよく飛翔する。
上空でそれぞれ3方向に向きを変えて『つるぎ』へ飛翔中のASMに向かう。
「ブリッジから報告0-9-0方面ASM迎撃成功目視確認、
方位0-0-0へ回頭終了、
0-0-0正面1発 2-7-0左方向2発 180方向1発 目視で確認、こちらに向かって飛翔中
南と、北のASMの迎撃成功、西方面のASM一発成功
2-7-0方向、ASM一発撃ち漏らし、来ます。」
「主砲自動照準、撃ち方、はじめ。」
『ドーン』『ドーン』『ドーン』『ドーン』主砲発射の衝撃がCICのどこかにあるウーファーと
電動モーターによる振動で再現され響く、リアルだ。
2発目の127㎜砲弾が、ASMの近くで炸裂、破片でASMは海面へ落下した。
「艦橋よりCIC! 方位2-7-0、主砲の近接炸裂弾により迎撃成功!」
ブリッジでVR双眼鏡を睨む見張り員がCICへ報告をいれた。
『つるぎ』は、P-1から放たれた悪魔のような6発のジャブを、完全なる無傷で全弾迎撃してみせたのだ。
「……ふぅ。こちらが一度もレーダーで捉えていないのに、これほど正確なTOT攻撃とはな」
艦長が安堵の息を吐き、腕を組んだ。
「ソノブイで完全にこちらの航跡を捕捉されているな。面舵、針路0-9-0へ戻せ。速力は14ノットへ落とせ」
「了解、面舵、針路0-9-0、速力14ノット」
「それにしても瀬々串、よくTOTのタイミングと方向が読めたな。……例の彼女の仕業か?」
「艦長、ええ最初に中名が教えてくれたTOTパターンです。」
「その彼女とは連絡取れているのか?」
「いいえ、私も彼女も司令部に携帯電話は取り上げられているので、その…
……今のが、ずいぶんと久しぶりの連絡ですよ。きっちり迎撃して返信しておきました。皆さん、ご協力ありがとうございました」
瀬々串がCICのオペレーターたちへ頭を下げると、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、小さな笑いが漏れた。
「なるほど、吉野三佐は確かに手強い。ソノブイだけで、レーダーに姿を見せず、完璧なTOT攻撃だがイージス艦を抜けるほどではない、もちろん中名君もだ」
相手を評価する艦長。
「艦長、ありがとうございます。」
CICがまた笑い声に包まれた。
「ブリッジです、艦長どうせ捕捉されているならば、最大船速で駆け抜けましょう。昨日25ノットで駆け抜けると打ち合わせしたじゃないですか。」
ブリッジの航海長がCICの艦長へ進言を行う。
「いや、だめだ。このままでもゴールには十八時四十分には着く。波高二メートルの中で最大船速を出せば、艦の動揺がファランクスやSeaRAMの射撃に影響する恐れがある。
ゆっくりと瀬々串君と中名君とのチャット我々も付き合おうじゃないか、静かに行こう。
床が揺れてないから実感がないだろうが、波高2mだぞ!今は。」




