【異世界編】うっかたはバケモノか?(9)
15時28分30秒
「着弾予想時刻まで、あとマルヒトサンマル(一分半)そろそろ正面からのASMを探知するころです。」
タイムキーパーの頴娃が読み上げる
「そうだ、一番近くのソノブイ音、みんなのヘッドセットに回して
みんなで瀬々串君のがんばりを応援しよう!」
千尋が音響員に謎の指示をおこなう。
「一番近くのソノブイは電波取れません、2番目の『つるぎ』正面のソノブイ音回します。」
VLS(垂直ミサイル発射装置)から発射音が4連続で続く。ASM1発につきESSM(発展型シースパーロー)2発を迎え撃つ発射方式だ。
「発射音4! ESSMと思われます!」
「『つるぎ』減速! キャビテーション変化、面舵!」
「彼気付きましたね、私が最初に教えたパターンですから、両サイドと後ろから2発くるパターンだと…」
中名が照れながら答える。
「そろそろ残りの4発にも気付くよ!」
千尋が叫ぶ。
爆発音が2発、『つるぎ』の船体を通じて響く。無事に正面からの2発は迎撃したようだ。
「爆発音2発、ASM迎撃成功、『つるぎ』面舵全力回頭中」
続けて、ミサイル発射音が、8発聞こえる、微かに聞こえる油圧モーターの機械音、主砲とファランクス、SeaRAMが動作した音。
別の音響員が声を重ねる。
「追加発射8!」
「艦内機械音増大。砲塔旋回――主砲来ます!」
『ドーン』『ドーン』『ドーン』『ドーン』主砲発射の衝撃が船体を伝って海中へ響く。
「主砲、二発、三発、四発――射撃停止! 続いて爆発音。近接信管の炸裂か、ASM迎撃音と思われます!」
「一発抜けたね、でも船体を回したから、主砲で仕留めたね、
瀬々串君覚えていたね、中名が最初に教えていたパターンを。」
「『つるぎ』取舵東向きに戻しています、減速 14ノットへ変更、全弾迎撃成功のようです。」
「瀬々串、きっちり、いい仕事をしたね、もちろん中名もね。
ヘッドセットのソノブイ音切って、今からダイエットするよ、
14ノット。……19時前に着く速度だね。貯金、全部安全に使う気だ。
艦長も分かってるね。当たるか外れるかは、最後はサイコロだって。
枕崎さん、操縦交代お願いします。二時間かくれんぼ。フラップとエアブレーキ、脚も使って抵抗増やして。1・2番は必要に応じてA/B。三番はアイドル。二時間後に燃料をあと15パーセント落としておいてください。
みんな、『つるぎ』が増速、変な動きしたら起こして、仮眠とるから」
そう言うと、枕崎へコクピットを明け渡し、ベンチシートで、毛布にくるまって、仮眠をはじめた。
*
鹿屋基地 食堂
食堂ではプロジェクターで中継を放映してパブリックビューイングが始まっていた。
「おいおい、ランディングギアだして、フラップ、エアブレーキ全開でA/Bで、燃料消費とか
空中投棄でいいじゃないか、エンジン整備しているこっちの身になれってんだ。」
「整備員の皆さまは知らないでしょうが、低空での燃料空中投棄は、海洋汚染の原因になるから
減点対象なんですよ、もちろんA/Bによる、エンジン寿命の浪費もですけど。
まあ、シミュレーターだからいいじゃないですか。」
「よくねえよ! あんな飛び方、実機でやられたらタービンブレード全交換コースだぞ!
つうか、着陸後、すぐに整備科事務所に謝りにきて、エンジン見たら、エンジン寿命が倍のペースで消えているんだ、そもそもA/Bは緊急時か、滑走路が損傷して短距離離陸せざるを得ない時に使うもんだ。
上からの注意と整備科への差し入れでまだ、第一線で飛べているのが不思議なくらいだ、
まあ、あの腕P-1乗りいや、自衛隊で一番だろうがな。整備をすればわかる。
予備エンジンが潤沢にあって、交換コストが安いからな、
交換コストが高ければ真っ先に会計検査院に撃墜されてるぞ、あの音速の魔女!」
*
広島県・海上自衛隊 呉基地。
係留索で繋がれた某潜水艦の狭い乗員食堂。
艦内のモニターでも、回線を繋いだ演習のパブリックビューイングが行われていた。
「おい見ろよ、あいつら……P-1のソノブイに追いかけ回されてやがるぞ」
紙コップのインスタントコーヒーをすする音響員が、可笑しそうに画面を指さした。
「水上艦の連中なんて普段、自分たちがソノブイに追いつめられる側になった経験がないからな。今ごろCICの中で全員、幽霊でも見るような顔して不思議がってるんじゃないか?」
「あの海域……ミッションマップ14番か」
隣で腕を組んでいた若い乗員が、過去のトラウマを思い出すように身震いした。
「過去に二度、あの『音速の魔女』相手にかくれんぼの演習をやらされましたよね、うち。一回目短魚雷で直撃判定。二回目は250mの海底でボトムで逃げ切ったつもりが、爆弾で直撃、撃沈判定食らいましたっけ…… 対潜爆弾、目かソナーついているんだっけ?とあの時思いましたよ」
「吉野さん、うちの艦長になってくれませんかね」
音響員が呟く。
「いや、副長でも、総舵手でもいいですけど」
「おい、馬鹿野郎」
後ろで立ちながらモニターを見ていた、総舵手が、音響員の頭を小突いた。
「艦長と副長に聞かれたらショックで寝込むぞ。というか、今のは俺も地味に傷ついたわ。……それよりもお前、自分の席を譲って吉野さんに音響員になってもらうのはどうだ?」
食堂にドッと笑い声が起きる中、モニターの中の怪鳥は、海面すれすれの低空で脚とブレーキを広げ、次の狩りに備えて身を削る潜伏飛行を続けていた。




