【異世界編】うっかたはバケモノか?(7)
現在14時50分
「現在座標B-8、もうすぐ訓練海域の南限です。方位0-0-0(真北)へ旋回。」
副操縦士の喜入がディスプレイの海図を見ながら報告する。
「想定より『つるぎ』の速力が速い、早めにジャブを撃ち込む
ラストダイブ一番いいタイミングと場所でやるよ」
「了解しました。」
「待ってるだけでもソノブイ網には引っかかるけどさ、もう少し位置精度を上げよう。今、『つるぎ』のプロット精度はどれくらい?」
「現在、8割の確率でC-2のグリッド内です!誤差およそプラスマイナス15海里。」
音響員が即座に報告を上げる。
「変わらず25ノットで東へ航行中。依然として轟音を撒き散らしています!」
「B-3、C-2まで突っ込んでソノブイを落とすよ。メートル単位まで位置を引っこ抜く。『つるぎ』がD-2へ滑り込む前に、ジャブのASMを叩き込む」
「いや機長、近づきすぎです!」
喜入が青ざめた顔で答える。
「相手のSPY-1の探知圏内ですよ! SM-2(中距離対空ミサイル)が飛んできます!」
「20フィートまで落とせば見つからないよ」
千尋は何でもないことのように、さらりと言う。
「……は? 特訓のときは、波高1メートルもなかったじゃないですか!もっと距離をとって
高度30フィート(9m)はとりましょうよ、『つるぎ』を沈めるまえに、こっちが落ちますよ。」
「削らないように飛ぶのがパイロットでしょ。波高2メートル、うねり周期8秒。計算上、4メートルの隙間がある。喜入、スロットル握って。海面スレスレを這うよ」
「20フィートでどこまで詰める気ですか!?」
喜入の悲鳴のような問いに、千尋はHMDから目を離さず返す。
「水平線限界が28キロ。今日の波高は2メートルだから、シークラッターに紛れれば22キロ――海図で言えば、相手のちょうど1マス手前まで鼻先を突っ込める。
そこまで近づいて、奴らの真後ろの海にソノブイを落とす。メートル単位まで精度を上げるよ
実機じゃないから、整備員に怒られないよ。」
「あの、吉野君、低高度で落としたらソノブイのパラシュートが開く前に海面に叩き付けられて壊れると思うのだが…。」
ベンチシートに座っていた、枕崎が声を掛けた。
「枕崎さん大丈夫です、フラップ全開の140ノットで4本落とせば、1本生き残ります、シミュレーターでソノブイ2000本ぐらい壊した結果です。」
枕崎は、それきり何も言わなかった。
「真北へ変針! 距離67海里、B-3への突入および投下開始予想時刻――ヒトゴーマルナナ(15時07分)!」
秒針を睨みながら頴娃が鋭くコールする。
「メートル単位で精度が出たら、6本のASMでTOT(同時弾着攻撃)のジャブをいくよ。
中名、準備して。――瀬々串に、お前たちの居場所なんて全部筒抜けだって教えてやりな、次はウェルダンでじっくり焼くって
特訓通りね」
*
『WHOOP WHOOP, PULL UP! WHOOP WHOOP, PULL UP!』
『TERRAIN, TERRAIN!』
コクピット、ミッションデッキに警報が鳴り響く。
波によって電波高度計の数字が狂ったように暴れる。
スティックシェイカーが千尋の操縦桿をガタガタと激しく揺さぶった。
「うるさいね。――GPWS、インヒビット(警報遮断)。電波高度計のアラートも切れ。警告音で音響員の耳が潰れたらどうすんの」
『バチ、バチ』
警報音が消えた機内のスピーカーから機体の音を再現した音が流れる。
「波高2メートルもあると、機体に波しぶきが当たるね、よくできてるわこのゲーム」
全国の基地や市ヶ谷の運営センタースタッフや大臣が見ているのに、「ゲーム」とんでもないことを口走る千尋。
「千尋さん、しーです、みんなが見てますよ」
中名が注意する。
千尋は、外向きカメラに向かって指をチョキチョキさせた。カットしろ、の意味らしい。
記録は、そのポーズもきっちり残していた。
*
石川県小松市 航空自衛隊 小松基地
「おい……この女、100トンの大型機で海上20フィートを飛びながら、カメラによそ見して片手操縦してるぞ。完全に頭のネジが飛んでる」
「ああ、あれが噂の『音速の魔女』か。……おいおい、哨戒機なんかに乗せておくには惜しすぎるだろ。F-15に乗せろよ、うちへ引っ張ってこい」
「いや、過去一度声をかけていますがねえ、F15にも乗せて操縦桿を握らせたけどもP-1のほうが面白いって、断れています。」
*
宮城県東松島市 航空自衛隊 松島基地
「狂ってるな……確か、あの音速の魔女の爺さんって、うちの創設メンバーの吉野飛行隊長だろ? 血筋かよ。今度の鹿屋航空祭のとき、誰かツテを使って接触してこい。うちに転換しないかって口説けもう一度」
*
市ヶ谷
大画面の前に並ぶ将官や背広組の間に、微妙な空気が流れる。
「……ゲームと言われてますよ、センター長」
オペレーターの職員が引きつった笑いで耳打ちした。
「おい、聞かなかったことにしろ……」
頭を抱えるセンター長の横で、視察に訪れていた大臣がぽつりと呟いた。
「今度、私もあのゲームをやらせてもらえませんかね」
センター長は深く頭を抱え込んだ。
*
「B-2へ到着、速度200……180……フラップフル! 速度140ノット!対海面高度20フィートを維持」
副操縦士の喜入が、スロットルを調整しながら、声をだす。
「川尻、今! 4本、時間差でばらまけ」
「今、1番… 2番… 3番… 4番…」
川尻がタイミングよくタッチパネルを押す。
P-1の後部のバーティカルソノブイランチャーから海面にソノブイが落とされる
パラシュート展開無しで、ソノブイが波高2mの海面に落とされる。
「1番ロスト! 2番、ハイドロフォン断線! 3番ロスト! ――4番、海中展開シグナル受信! 4番生きてます! 水中ハイドロフォン深度30メートルでアライン完了!」
音響員が叫び声を上げた。
「ほらね、言ったでしょ」
「4番ブイ、明瞭に受音中! 方位0-7-2、距離24海里! 『つるぎ』のスクリュー音およびガスタービンの高周波ノイズをダイレクトに捕捉! 反響じゃありません、直達波です! 座標、C-2グリッド東北端――誤差、プラスマイナス300メートル!」
「もらった、中名準備して――ジャブ撃つよ」
満面の笑みで中名に指示をだす千尋。




