【異世界編】うっかたはバケモノか?(6)海域マップ付
現在、シミュレーター戦開始10秒前。
時刻は14時の10秒前。
「10、9、8、7――」
システム員がカウントダウンを読み上げる。
カウントがゼロになった瞬間、相手に探知されていない海域で、巡航速度で飛行している状態からスタートする手はずだ。
「じゃあいくよ。絶対にウェルダンでよろしく!」
千尋が操縦席で笑って叫ぶ。
「はい、喜んで!」
火器管制の中名が気合いたっぷりに応じた。
「「「「「はい、喜んで!!」」」」」
居酒屋のような威勢のいい復唱が機内に響き渡る。
「3、2、1――シミュレーション、スタート!」
各コンソールに一斉に火が入り、コクピットの前面スクリーンに青く広がる東シナ海から太平洋へと連なる水平線が投影された。
「現在高度3000フィート、SPY-1D(イージス艦のレーダー)に見つかるね、さっさと1000フィートまで下げるよ、
各自機器チェック、現在位置を出して――いや、いいや。ここ、宝島の東おおよそ43海里(約80キロ)ね。正面にマックスラインのフェリー、クイーンコーラル58(フィフティーエイト)がいる。波高約2メートル。奄美から鹿児島行きの定期便、今日の天気なら遅れてないはず。川尻、マッピングよろしく。パッシブソノブイも!」
言いながら開幕直後、千尋はサイドスティックを押し込み機首を下げる。
実機ならばマイナスGで体が浮き上がるはずだが、ここは鹿屋基地内、シミュレーター建屋の標高66メートルに据え付けられたシミュレーターの中だ。コクピットの視界と計器だけが急速な降下を示す。
「現在高度1000フィート、進行方位3-6-0(真北)、速度250ノットで巡航中! 風速、南から20ノット。第3エンジン出力60パーセント、第1・第2エンジンはアイドル!」
副操縦士の喜入が、計器の数値を読み上げる。
「海図にマッピング完了。現在、トカラ列島海図のG-6地点! ――真下の海面クリア、パッシブソノブイ投下、今! 着水まで約40秒、展開まで90秒!」
TACCOの川尻が叫ぶように報告を上げる。
「前方に民間フェリー、周囲に漁船多数。航空機、光学および目視では確認できません!
正面に屋久島、視程150キロ、宮之浦岳まで光学測量で距離140キロ、
北西の方向、諏訪之瀬島、御岳まで65キロ、千尋さん当たってます。」
光学・電子戦員の塩屋が即座に周囲の空域安全をコールする。
「ソノブイ展開しました! 民間フェリーの低周波ディーゼル音を確認……『つるぎ』のガスタービン音、現時点では感なし!」
音響員がヘッドホンを押さえながら声を張った。
「さらに高度500フィートまで落とすよ。速度320ノットへ増速、屋久島の南座標H-1へ急行――。
川尻、屋久島から宝島までソノブイ網を構築するよ。
お互い150キロ離れているから、『つるぎ』の開幕スポーン予想位置は、グリッドAの1~8、Bの1~3、Cの1か2、DEの1。音で位置を引っこ抜いたら、まずはASMのTime on Target(同時弾着)でジャブをかますよ」
「スロットル押し込み、速度320ノットへ増速! 南からの追い風20ノットに乗っけます。対地速度340!」
喜入がスロットルレバーを前に倒し、計器の対地速報値をコールする。
「屋久島南端、H-1地点までおよそ69海里(128km)――到達予想時刻、ヒトヨンヒトサンからヒトヨンヒトヨン(14時13分から14時14分)。」
タイムキーパーの頴娃が、報告する。
「頴娃さんありがとう、了解。屋久島から宝島までのソノブイ障壁を敷き詰めるよ。川尻、投下インターバルの計算急いで!」
*
開始14分後
「H-1地点到達、減速250ノットまで、スロットル下げて、ソノブイ投下いくよ準備ね!
減速したら、左バンク2-2-0方向(南西)まで、バンク終わったら、ソノブイいくよ、川尻――
よし、バンク終了ソノブイよろしく」
「投下今、展開まで57秒」
川尻がタッチパネルを押しながら、報告する。
「ソノブイ展開、感あり、おそらくガスタービン音です、ブレードレートから、おおよそ25ノット、音紋表と一致します、
距離不明、西の方面ですが方向安定しません、島か海底地形に反響しています」
音響員が報告を上げる。
このあたりは大陸棚の縁だ。海は浅く、島が連なり、海底は起伏している。
二十五ノットの水上艦は、潜水艦とは桁違いの音を出す。
出すからこそ、音はあちこちで跳ね返り、どこから来たのかを教えない。
「了解、どこの島の間を抜けてもいいように、計画通りソノブイ網作るよ、
アクティブソノブイも混ぜる、川尻任せた。」
*
時刻は14時
『つるぎ』ブリッジ
「艦首0-9-0、東。方位0-8-0、屋久島・宮之浦岳を視認。
地形照合――距離80海里、約150キロ。現在位置B-2で一致。
波高2メートル、現在停止中。台風一過の秋晴れです」
艦橋では、見張り員が光学照準装置のコンソールを見ながら、宮之浦岳までの距離を測っていた。
その報告を受け、航海長がCICへ状況を上げる。
「前進、速力25ノット、さっさと終わらせてからみんな家に帰るぞ。」
艦長が指示をだす。
*
そのころ、横須賀の某居酒屋。
(カチャ……)
店長が、本日予約の札を入り口に掛ける。
「十九時から ツルギ様 祝勝会 二十四名」




