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雪に足を取られ、まふゆは無様に転んでしまった。白い雪の上に、白い装束が広がる。
「きゃっ!」
冷たさと衝撃で一瞬息が詰まる。焦って起き上がろうとするが、滑ってうまくいかない。
その短い時間で、エドウィンはもう背後まで迫っていた。
「おやおや、転んでしまったのかい?大丈夫かい、まふゆ君」
心配するような口調とは裏腹に、その声には愉悦の色が滲んでいる。
彼はゆっくりとまふゆの前に回り込み、その場にしゃがみ込んだ。見下ろしてくる緑色の瞳が、獲物をいたぶる爬虫類のように細められる。
「怪我はないかな?君のその雪のような肌に、傷がついてしまっては大変だ」
言いながら、エドウィンはそっと手を伸ばし、まふゆの頬に触れようとする。
「……っ、やめて!」
まふゆは咄嗟にその手を振り払った。恐怖が全身を支配する。だが、その抵抗すら、彼を楽しませるだけだとわかっていた。
「つれないな。だが、そういうところも愛らしい。ああ、早く君の全てを味わいたい。その美しいアルビノの魔力を、私のものに……」
エドウィンの目が、狂的な光を帯びていく。彼はもう一度、今度は強引にまふゆの腕を掴んだ。
「さあ、行こう。私だけの楽園へ」
「嫌やっ!離して……!誰かっ……ミカゲ……!」
まふゆは必死に抵抗し、力の限り叫んだ。
その時、エドウィンの背後から、凍てつくような殺気をまとった声が響き渡る。
「……その汚い手を、離せ」
声の主が誰であるか、まふゆはすぐにわかった。エドウィンもまた、驚いたように振り返る。
そこに立っていたのは、いつもの黒い装束を身に纏い、しかしその手には抜き身の刃を携えた、ミカゲだった。
彼の瞳は、これまで見たこともないほどの冷たい怒りの炎に燃えている。
「ミカゲ……!」
「……影人、か。人払いの結界を抜けてくるとは、さすがだね。だが、邪魔はさせない」
エドウィンは舌打ちをすると、掴んでいたまふゆの腕をさらに強く引き寄せ、盾にするように自分の背後へと隠した。そして、空いている方の手をミカゲに向ける。
「消えろ」
エドウィンの手から、禍々しい紫色の魔力の塊が放たれた。
「……!?何で!魔導機もあらへんのに……!!」
まふゆは叫ぶが、ミカゲは表情一つ変えない。
彼はただ、迫りくる魔力の塊を冷静に見据え、最小限の動きでそれを回避した。
紫の光弾はミカゲがいた場所の壁に直撃し、轟音とともに壁を大きく抉る。
「……お前の相手は、俺だ」
ミカゲは低い声で告げると、再びエドウィンとの距離を詰めるべく、雪を蹴った。
その瞬間、エドウィンはにやりと笑い、隠していたまふゆの方へと向き直る。
「っ!?」
「君の記憶、少し覗かせてもらうよ」




