34-1
季節は過ぎ、冬。
12月がやってきた。
学園の図書館は、静寂と古い紙の匂いに満ちている。
外ではしんしんと雪が降り積もり、窓ガラスには美しい雪の結晶が張り付いていた。
まふゆは、古代魔術史の分厚い本を抱え、一人で閲覧室の大きな机に向かっていた。
もうすぐ冬休み。その前に、溜まっていたレポートを片付けてしまおうと思ったのだ。
「ふぅ……こんなもんかな」
最後の文字を書き終え、ペンを置くと、まふゆは大きく伸びをした。窓の外は、いつの間にか濃い藍色に染まり始めている。
「もうこんな時間なんや。急いで帰らんと、ミカゲたちが心配するかも」
まふゆは急いで本を片付け、荷物をまとめると、図書館を後にした。
シン、と静まり返った廊下に、彼女の足音だけが響く。雪が音を吸収しているのか、学園全体がいつもよりずっと静かに感じられた。
寮へと続く渡り廊下に出ると、ひやりとした冷気が頬を撫でる。
「さむっ……」
思わず身をすくめた、その時だった。
背後から、ぬるりとした気配がした。
それは、ミカゲやシャノンのような洗練されたものではなく、もっと粘着質で、不快な気配。
「──やっと、二人きりになれたね。私の果実」
心臓が氷で掴まれたように凍り付く。
その声には、聞き覚えがあった。決して忘れることのできない、甘くねっとりとした響き。
まふゆがゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべた、金髪の男だった。
「エドウィン……先生……」
消息不明だったはずの、白檻会の残党。
彼は、以前と変わらない、人好きのする笑みを浮かべている。だが、その緑色の瞳の奥で燃えているのは、純粋な狂気と執着の炎だった。
「なぜ……ここに……」
「なぜ、だって?そんなの決まっているだろう?君に会いに来たんだよ、まふゆ君」
エドウィンは一歩、まふゆに近づく。まふゆは反射的に後ずさった。
「白檻会は終わった。だが、私の想いは終わらない。……いや、むしろ、君への執着は日増しに強くなるばかりだ。君という存在、その美しいアルビノの肉体……そして、そのたわわな果実。全て、私のものにしたくて堪らない」
彼の言葉は、もはや教師としての仮面をかなぐり捨てた、欲望の告白だった。
まふゆは恐怖で声も出せず、ただ後ずさることしかできない。
「さあ、おいで。今度こそ、誰にも邪魔されない場所へ行こう。君は、私だけのものになるんだ」
エドウィンが手を伸ばしてきた、その瞬間。
まふゆは意を決して、彼に背を向け、雪の積もる中庭へと向かって全力で走り出した。
「助けて!誰か……!」
助けを求める叫びは、降りしきる雪に吸い込まれていく。しかし、エドウィンは慌てる様子もなく、楽しげに口の端を吊り上げた。
「無駄だよ。この辺りには、あらかじめ人払いの魔術をかけておいた。……さあ、鬼ごっこの始まりだ」
彼は楽しそうに呟くと、逃げるまふゆの背中を、ゆっくりと追い始めた。
絶望的な状況の中、まふゆはただ、仲間たちの顔を思い浮かべながら、必死に足を動かし続けることしかできなかった。




