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レオンハルトは仲間たちの祝福を受けながら、まだ夢見心地で隣に立つリリアの横顔を、どこか眩しそうに見つめている。
そんな兄の様子を、セリウスは静かに観察していた。そして、周囲の喧騒から少しだけ離れた場所で、レオンハルトにだけ聞こえるような、潜めた声で問いかけた。
「……で。兄さんはいつ、彼女のことを好きになったんだ?」
その問いは、何の含みもない、純粋な弟としての興味だった。
セリウスも知っている。兄がどれほど深く、まふゆに恋をしていたかを。そして、その恋が叶わなかったことも。
セリウスの言葉に、レオンハルトは一瞬虚を突かれたように目を見開き、それから少し困ったように苦笑を浮かべた。
彼は弟から視線を外し、仲間たちと笑い合うリリアへと再び目を向ける。その瞳には、複雑でありながらも、温かい感情が揺らめいていた。
「……いつから、か。はっきりとは、わからないな」
レオンハルトは、自身の心を確かめるように、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、俺はずっとまふゆのことを見てた。あいつがミカゲを選んだ時も、正直、堪えたさ。だが、後悔はしてない。まふゆが笑ってるなら、それが一番だからな」
それは、失恋した男の偽らざる本心だった。だが、彼の話はそこで終わらない。
「リリアは……そうだな。俺がまふゆしか見てなかった、あの時からずっと……あの子は、ただ真っ直ぐに俺を見てくれてた」
レオンハルトの脳裏に、これまでの光景が蘇る。
まふゆへの想いを自覚しながらも、自分に告白してくれた時の、震えながらも真剣な瞳。
振られてもなお、諦めることなく、ただ純粋に応援し続けてくれた明るい笑顔。
ダークエルフであることに卑屈になるでもなく、新しい夢を見つけ、キラキラと目を輝かせていた姿。
「どんな時も、リリアは素直だった。俺が他の誰かを好きだって知ってても、その想いを否定したり、捻くれたりすることもなく、ただ『好きだ』って気持ちをぶつけてくれた。……そのうち、気づいたんだ。俺の心の中で、あの子の存在が、いつの間にかとんでもなく大きくなってることに」
自分の感情の機微を言葉にするのは得意ではない。それでも、レオンハルトは弟にだけは、その心の変化を正直に伝えた。
失恋の痛みを抱えていた心に、リリアの太陽のような明るさと、ひたむきな想いが、知らず知らずのうちに染み込んでいた。
それは、傷を癒す薬のように優しく、そして、新たな光を灯す希望のように、温かかったのだ。
「だから……いつから、じゃないのかもしれんな。リリアが俺の隣で笑ってくれる、その一つ一つの積み重ねが、俺の気持ちを育ててくれたんだ」
そう言って、レオンハルトは晴れやかな顔で笑った。それは、過去の恋を乗り越え、新たな想いを見つけた男の、力強くも優しい笑顔だった。
セリウスは兄のその表情を見て、全てを理解したように、静かに、そして満足げに頷いた。




