33-15
その声の震えに、レオンハルトはリリアがなぜ泣いていたのかを瞬時に悟る。
おそらく、自分のファンと名乗る誰かに、心ない言葉を投げつけられたのだろうと。
彼の眉間にぐっと力がこもる。
だが、次の瞬間には、その表情はいつもの自信に満ちた不敵な笑みに変わっていた。
「馬鹿なこと言うな」
レオンハルトの声は、風の音に負けないくらい力強かった。
「誰が何と言おうが、俺がお前の隣にいたいから、今こうして走ってんだ。他の奴らの声なんざ、気にする必要はない。お前は、お前らしく胸張ってりゃいいんだよ」
その言葉は、どんな魔法よりもリリアの心を温かく満たしていく。
ああ、この人は、いつだってこうだ。不安や迷いを、その太陽のような力強さで吹き飛ばしてくれる。
ダークエルフだから、とか、身分が違うから、とか、そんなちっぽけなことで悩んでいた自分が、馬鹿みたいに思えた。
「……うんっ!」
リリアの瞳から、再び涙がこぼれ落ちた。
しかし、それはさっきまでの悲しみや悔しさの涙ではない。嬉しくて、温かくて、どうしようもなく愛おしいという気持ちから溢れ出た、輝く雫だった。
彼女はもう彼の首にしがみつくのではなく、その広い胸にそっと顔をうずめた。
「レオンハルト様……、ありがとう……!」
「おう!」
短いやり取りの後、レオンハルトは最後の力を振り絞り、さらに加速する。
他のカップルをぐんぐん引き離し、そして──。
「「「うおおおおおおっ!」」」
紅組のテントから、割れんばかりの大歓声が上がる。
レオンハルトとリリアは、見事1位でゴールテープを切ったのだ。
ゆっくりとリリアを地面に降ろしたレオンハルトの顔には、達成感に満ちた汗が光っていた。
『優勝は、飛び入り参加のレオンハルトちゃん&リリアちゃんペアよぉ!おめでとう!』
ローゼリア先生のアナウンスが響き渡り、グラウンドは祝福の拍手に包まれる。
テントでは、まふゆたちが飛び上がって喜んでいた。
「やったー!レオンハルト、リリア、すごい!」
「……はやかった。すごかった」
「さすが兄さんだね。やることが派手だ」
「ふんっ、まあまあじゃない」
まふゆとアリスの素直な歓声に、セリウスがやれやれと肩をすくめ、シャノンはそっぽを向きながらも口元を綻ばせている。ミカゲも、その光景を静かに見守っていた。
リリアはまだ夢見心地のまま、隣に立つレオンハルトを見上げる。
「あ、あの、レオンハルト様……その、あ、あーし……すっごく、嬉しかった……!」
「気にするな。それより、優勝賞品、どうするかな。温泉旅行だっけか」
レオンハルトはそう言うと、悪戯っぽく笑いながら、リリアの顔を覗き込んだ。
「ま、当然、二人で行くよな?」
「──へっ!?」
あまりにストレートな誘いの言葉に、リリアの思考は完全に停止した。
「ふ、ふ、ふたりで……!?」とオウム返しに呟くのが精一杯。顔は蒸気が噴き出しそうなほど真っ赤に染まり、さっきまでの涙もどこかへ吹き飛んでしまっていた。
体育祭の喧騒の中、リリアの心には、レオンハルトのその一言だけが、いつまでも、いつまでも響き渡っていた。




