33-14
「そ、それってつまり……!?」
リリアの口から、か細い疑問符がこぼれ落ちる。
今の言葉は、どういう意味?
飛び入りで参加するって、誰と?自分と?
それって、まるで、告白──……?
しかし、彼女がその答えを求める前に、事態はあまりにも速く進んでいった。
「おい、ローゼリア先生!俺たちも参加させてもらうぜ!」
レオンハルトはリリアを軽々と抱き上げたまま、スタートラインの方へ向かって大声で叫ぶ。その堂々とした宣言に、近くにいた生徒たちがざわめき、道を開けた。
『あらぁん、レオンハルトちゃんじゃないの!しかも、リリアちゃんと一緒だなんて……。いいわよぉ、面白そうだから特別に許可してあげる!さあ、急いでラインについて!』
ローゼリア先生の悪戯っぽいアナウンスが響き渡る。
レオンハルトはにやりと笑うと、そのままリリアを抱えてスタートラインへと並んだ。
リリアは彼の腕の中で、なすがままになっている。何が起きているのか、頭が追いつかない。
さっきまで冷たい言葉を浴びせられて凍り付いていた心が、彼の体温でじわじわと溶かされていくような、不思議な感覚だった。
「ま、待って、レオンハルト様!あーし、心の準備が……!」
「んなもんいらないだろ。いいか、絶対離すんじゃないぞ」
有無を言わせぬ力強い言葉。青緑色の瞳が、まっすぐに前を見据えている。その真剣な横顔を見ていると、リリアはもう何も言えなくなってしまった。
「……すごい展開になってしもたねえ」
成り行きを見守っていたまふゆが、ぽつりと呟く。
「全くだ。だが、兄さんらしい」
隣でセリウスがやれやれと肩をすくめ、ミカゲは黙ってその光景を見つめている。
アリスはただ、こてんと首を傾げていた。
──そして、ついにその時が来た。
『それでは、愛の障害物競走、カップルレース!位置について……よーい、スタート!』
乾いたピストルの音と共に、各組のカップルが一斉に駆け出した。
レオンハルトも、リリアを抱えたままとは思えないほどの力強い走りでスタートダッシュを切る。
「きゃっ!」
体に伝わる振動と、風が髪を攫っていく感覚に、リリアは思わず彼の首にしがみついた。
最初の障害は、二人で一つの大きなパンツを履いて走る「デカパン競争」。
レオンハルトはリリアを一旦降ろすと、手際よく二人でパンツに足を通す。
「いくぞ、足合わせろよ!」
「う、うんっ!」
ぎこちないながらも、二人は息を合わせて走り出す。隣に立つ彼の熱が、布越しに伝わってきて、リリアの心臓は破裂しそうなくらいに高鳴った。
次の障害は、お互いの手首を赤い紐で結び、二人三脚で平均台を渡るというもの。
「リリア、俺を信じろ」
「……うん!」
レオンハルトの言葉に、リリアは強く頷く。
彼の大きな手が、彼女の肩をしっかりと支えてくれる。その頼もしさに、さっきまでの不安が嘘のように消えていく。
一歩、また一歩と、二人は完璧なコンビネーションで平均台を渡りきった。
そして、最後の障害。それは、男性が女性をお姫様抱っこしてゴールするという、このレースのクライマックスだった。
「さて、と。それじゃあ、遠慮なくいくぜ!」
レオンハルトは再びリリアを軽々と抱え上げる。スタートの時とは違う。今は、リリアの心も、確かに彼と共にある。
「レオンハルト様……」
「ん?なんだ?」
走りながら、彼は視線を落としてリリアを見る。その優しい眼差しに、彼女は勇気を振り絞って口を開いた。
「あ、あの……!あーし、レオンハルト様の隣にいても、いいの……?迷惑じゃ、ない……?」
それは、校舎裏で浴びせられた言葉が、棘のように心に突き刺さったままの、弱々しい問いかけだった。




