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「リリア、大丈夫……?」
いつまで経っても戻らないリリアを心配して、まふゆが様子を見に来てくれた。その優しい声に、リリアは弾かれたように顔を上げる。
「まふゆん……」
無理に作った笑顔は、ひどくぎこちなく歪んでいた。
「ごめん、なんでもないー!ちょっと、お説教されちゃっただけだから!」
努めて明るく振る舞おうとするが、声が震えるのを止められない。まふゆは、リリアが何かを隠していること、そして深く傷ついていることを見て取った。
「……何か、言われたんやろ?うちでよかったら、話してくれへんかな」
まふゆはリリアの手をそっと握った。その温かさに、必死に堪えていたリリアの瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。
しかし、リリアは何も言えなかった。ただ、首を横に振るばかり。
(言えない……。レオンハルト様に、迷惑がかかるかもしれないなんて……。あーしが、彼の品位を下げてるなんて……)
憧れの人の評判を落としているかもしれないという絶望的な考えが、彼女の心を支配する。
ダークエルフであるという、自分ではどうしようもない事実が、こんなにも重く苦しいなんて。
涙は後から後から溢れてきて、止めることができなかった。
そんな彼女の打ちひしがれた心とは裏腹に、グラウンドにはローゼリアの艶やかな声が、拡声器を通して響き渡った。
『はぁい、お待たせしちゃったかしら、生徒ちゃんたち!これより、体育祭の特別エキシビション!愛と絆が試される「カップルレース」を始めるわよぉ!』
そのアナウンスに、グラウンドが一気に色めき立つ。
『そして今年の優勝カップルには、ななななぁんと!学園都市近郊に新しくできた温泉宿の、一泊二日ペア宿泊券をプレゼントしちゃうわ!さあ、事前にエントリーしたカップルは、スタートラインへどうぞ!』
「温泉旅行!?」
「マジかよ、超豪華じゃねえか!」
観客席や各テントから驚きの声が上がり、事前に申請していた生徒たちが、パートナーと手を取り合ってスタートラインへと向かっていく。
リリアの耳にもその声は届いていたが、もはや何の感情も湧かなかった。
憧れていたカップルレース。誘う勇気さえ出せなかった競技。今はただ、遠い世界の出来事のように聞こえる。
まふゆが何とかして彼女を慰めようと口を開きかけた、その時だった。
「──いつまで泣いているつもりだ、リリア」
低く、けれどどこまでも真っ直ぐな声が、二人の間に割り込んだ。
ハッとして顔を上げると、そこには腕を組んで仁王立ちするレオンハルトの姿があった。
彼の後ろには、心配そうなセリウスや、静かに成り行きを見守るミカゲたちの姿もある。
「レ、レオンハルト様……!?」
なぜ彼がここに。見られたくない。こんな、みじめに泣いている姿なんて。
リリアが慌てて涙を拭おうとした瞬間、レオンハルトは大きなため息をつくと、彼女の前に屈み込んだ。そして、次の瞬間──。
「え……きゃっ!?」
リリアの体は、ふわりと宙に浮いた。
レオンハルトが、何のためらいもなく彼女を横抱きに抱え上げたのだ。所謂、お姫様抱っこという形で。
「ちょ、レオンハルト様!?な、何を……!?」
突然のことにリリアはパニックに陥り、彼の胸の中で身じろぎする。しかし、レオンハルトの腕はびくともしない。
「決まってんだろ」
彼は悪戯っぽく口の端を上げると、グラウンドのスタートラインを顎でしゃくった。
その瞳は、確かな意志の光を宿して、まっすぐにリリアを見つめている。
「俺たちも、飛び入りで参加するぞ。あのカップルレースに、な」




