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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十三話 はじめての体育祭
385/424

33-10




大玉転がしで見せた少女たちの微笑ましい奮闘の後、体育祭の雰囲気は一転、個々の身体能力が試される「障害物走」へと移行した。


コース上には、腹ばいで進むネット、細い一本橋の平均台、そして口だけでパンを掴み取るパン食い競争といった、多彩な障害が設置されている。


観客席からは、これから始まる波乱万丈なレースに期待する声が上がっていた。




紅組の最初の走者は、シャノンだ。


「ふんっ、こんなの、あたしにとってはただの散歩みたいなもんよ」


自信満々に言い放つと、彼女はスタートラインに立った。


号砲一閃。猫族の獣人である彼女の真価が、ここで発揮される。


最初のネットくぐりでは、まるで獲物を追う猫のようにしなやかな体で、あっという間に網の下をすり抜けた。

続く平均台では、その卓越したバランス感覚で一切ふらつくことなく、まるで平地を走るかのように駆け抜けていく。


「速い!さすがシャノちゃん!」

「頑張れ、シャノン!」


リリアやまふゆの声援が飛ぶ。

最後の難関、パン食い競争。吊るされたパンが風に揺れてなかなか掴めない他の選手を尻目に、シャノンは驚異的な動体視力でパンの動きを完璧に予測すると、一度の跳躍で的確にパンを咥えてみせた。


そのままゴールまで独走し、文句なしの1位を獲得。その圧倒的なパフォーマンスは、観客を大いに沸かせた。




次に登場したのは、セリウスだ。


「さて、どこまでやれるか……」


彼は冷静にコース全体を見渡し、障害の配置と順番を頭に叩き込む。


スタートの合図と共に、彼は落ち着いて走り出した。シャノンのような爆発的な速さはない。


しかし、彼の走りには知性が光っていた。

ネットくぐりでは最も効率的なルートを瞬時に判断し、平均台では魔術の訓練で培った集中力で、体幹をぶらすことなく着実に渡り切る。


パン食い競争では、少し手こずる場面も見られた。揺れるパンに翻弄され、何度か空振りをしてしまう。

その少し不器用な姿に、テントからくすくすと笑い声が漏れた。


「ノセ!しっかりしなさいよ!」


シャノンからの野次とも応援ともつかない声に、セリウスはむっとした表情を浮かべながらも、なんとかパンをゲット。

追い上げてきた青組の選手とデッドヒートを繰り広げ、僅差で2位に滑り込んだ。




そして、紅組の期待を一身に背負い、レオンハルトがスタートラインに立つ。


「よっしゃあ!派手にいかせてもらうぜ!」


その言葉通り、彼の走りは豪快そのものだった。ネットは力ずくでたくし上げるようにして突破し、平均台は少々バランスを崩しかけながらも、持ち前の体幹の強さで強引に立て直して駆け抜ける。


そのパワフルな走りに、グラウンドからは「おおっ!」というどよめきが上がる。


「レオンハルト様、頑張ってー!」


リリアがひときわ大きな声援を送る。その声は、彼の耳に確かに届いていた。


最後のパン食い競争。彼は揺れるパンなどお構いなしとばかりに、大口を開けて突進し、見事にパンを鷲掴みならぬ“鷲食い”してみせた。


その荒々しくも頼もしい姿で、堂々の1位でゴールする。


「やったー!さすがレオンハルト様!」


リリアは自分のことのように飛び跳ねて喜んだ。




最後に登場したのは、ミカゲだった。

彼は静かにスタートラインに立ち、その黒曜石の瞳でコース全体を一瞥するだけ。


号砲が鳴っても、彼の表情は変わらない。しかし、その体は黒い影となって動き出した。

ネットは、まるで水に溶け込むように滑らかにくぐり抜ける。平均台では、一切の揺らぎなく、その存在の重さを感じさせないほどの静けさで渡り切った。


全ての動きが、暗殺者としての彼の技術の応用だった。見る者全てが、その異次元の動きに息を呑む。


パン食い競争ですら、彼にとっては障害にならなかった。風の動き、紐の捻じれ、パンの重心。その全てを瞬時に計算し、最短の動きで、静かに、しかし確実にパンを口にする。

それはもはや競技ではなく、一種の芸術の域に達していた。


「……ミカゲ、すごい……」


まふゆは呆然と呟いた。その声は、熱気に満ちたグラウンドの中で、誰に聞かれることもなく掻き消えていく。


ミカゲはパンを咥えたまま、一切スピードを緩めることなくゴールまで疾走し、まるでそこに最初から立っていたかのような静けさでフィニッシュラインを越えた。

当然のように1位。しかし、そのタイムは他のどの走者よりも抜きん出ていた。


「な……なんだ、今の……」

「走ってるってレベルじゃねぇぞ……」


他の組の生徒たちからも、驚愕と畏怖の入り混じった声が上がる。


ミカゲは咥えていたパンを無造作に手に取ると、感情の読めない瞳で紅組のテントへと視線を向けた。

そして、まふゆの視線と絡み合うと、ほんのわずかに、本当にごくわずかに口の端を緩めた気がした。それは、まるで「見ていたか?」と問いかけるような、彼だけのサイン。




「ははっ、あいつは相変わらず規格外だな!」


レオンハルトが楽しそうに笑い、セリウスも「彼の身体能力は、もはや別次元だね」と感心したように息を吐く。


紅組のテントは、シャノン、レオンハルト、ミカゲがそれぞれ1位、セリウスが2位という好成績を収めたことで、この日一番の盛り上がりを見せていた。

ガレオスの顔が苦虫を噛み潰したように歪むのを、ガンツは眼鏡の奥で満足げに眺めている。




障害物走が終わり、選手たちが一息ついていると、次は女子必須競技である「玉入れ」のアナウンスが響き渡った。


まふゆ、リリア、シャノン、そしてアリスを含む、紅組の女子生徒全員が、籠を囲むようにして立ち上がる。


「よーし、これも絶対勝つわよ!」

「うん!みんなで力を合わせるで!」


気合を入れるシャノンの隣で、まふゆもこぶしを握る。


競技が始まると、まふゆは背の高い他の種族の生徒に紛れながら、一生懸命に玉を投げる。

しかし、彼女の投げた玉はことごとく籠に届かず、力ない放物線を描いて地面に落ちていった。


「うぅ、全然入らへん……!」


隣で投げていたリリアも、同じように苦戦している。


しかし、その中で圧倒的な活躍を見せたのが、やはりシャノンだった。

彼女は驚異的な跳躍力で誰よりも高く跳び上がり、正確無比なコントロールで次々と玉を籠に放り込んでいく。


「すごい……!シャノン、かっこいい……!」


自分の不甲斐なさを忘れ、まふゆは思わずシャノンの活躍に見入ってしまう。


アリスもまた、小さな体で一生懸命に玉を投げている。彼女の玉もなかなか届かないが、そのひたむきな姿は、見ている仲間たちの心を温かくした。


結果は、シャノンの獅子奮迅の活躍もあって、青組に次ぐ2位。

惜しくも1位は逃したが、全員で力を合わせた一体感に、紅組のテントは温かい雰囲気に包まれた。




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