表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十三話 はじめての体育祭
382/424

33-7




そして次の競技である「借り物競争」のアナウンスが響き渡る。

A組のテントでは、次に出走するまふゆに仲間たちから激励の声が飛んでいた。


「まふゆ、頑張れよ!」

「変なお題引くんじゃないわよ!」


レオンハルトの応援にシャノンが軽口を重ねる。ミカゲは何も言わないが、その視線は静かにまふゆへと注がれていた。


「うん、頑張ってくるわ!」


まふゆは仲間たちに手を振ると、緊張した面持ちでスタートラインへと向かった。




ピストルの音と共に、各組の走者が一斉に駆け出す。

まふゆも懸命に走り、トラックの中ほどに設置されたテーブルの上にある、裏返されたカードの一枚を掴み取った。


息を整えながらカードをめくった瞬間、まふゆの菫色の瞳が大きく見開かれる。




そこに書かれていた文字は──『好きな人』。




「……えっ」


思わず声が漏れた。それは、数日前にレオンハルトが「お題が好きな人だったらミカゲを連れてゴールだな!」と、散々からかってきた、まさにそのお題だったのだ。


まさか、本当に引いてしまうなんて。

顔にぶわりと熱が集まるのを感じながら、まふゆは恐る恐る紅組のテントへと視線を向けた。


仲間たちが「何を引いたんだ?」と身を乗り出しているのが見える。その中に、いつもと変わらない静かな表情でこちらを見つめるミカゲの姿があった。


黒曜石のような瞳と視線が絡み合う。

体育祭が始まる前、赤色の鉢巻をリボンのように結んだ彼女に「……似合っている」と囁いてくれた彼の声が、耳の奥で蘇る。


(……好きな人、なんて)


他の誰でもない。自分の好きな人は、ミカゲ、その人だけ。

その事実が、羞恥と同時に、どうしようもない幸福感となって胸いっぱいに広がっていく。


他の生徒たちが慌ただしくお題のものを探して走り回る中、まふゆは意を決して、ミカゲのいるテントへと駆け出した。


「まさかまふゆ……アレ、引いちゃったのかい?」

「ミカゲ、行ってやれ!」


まふゆのただならぬ様子と、彼女が握りしめるカードの内容を察したレオンハルトやセリウスが、面白そうにミカゲの背中を叩く。




「……ミカゲ」


テントの前にたどり着いたまふゆは、上気した頬のまま、ミカゲに向かってそっと手を差し出した。


「あ、あの……!その、ミカゲ、うちと一緒に……!」


その必死な、それでいて恥じらいに満ちた懇願に、ミカゲは答えなかった。

ただ、無言で立ち上がると、差し出されたまふゆの小さな手を、力強く、けれど優しく握り返す。


「……行くぞ」


短く告げると、彼はまふゆの手を引いて走り出した。

繋がれた手から伝わる、彼の体温。風を切って走る彼の、黒い装束の裾が翻る。


まふゆはただ、彼の広い背中を見つめながら、必死にその足で後を追った。

周りの喧騒が遠のいていく。世界に、彼と自分しかいないような不思議な感覚。




二人は手を取り合ったまま、見事1位でゴールテープを切った。


審判の教師がお題のカードを確認し、「お題、『好きな人』!認めます!」と高らかに宣言すると、観客席や各組のテントから、ひときわ大きな歓声と温かい拍手が沸き起こった。


「ヒューヒュー!」

「やるじゃーん、まふゆん!」


レオンハルトの囃し立てる声と、リリアの嬉しそうな声が聞こえてくる。


まふゆは顔を真っ赤にしながら、俯くことしかできなかった。

ミカゲはそんな彼女の様子をちらりと見ると、ふ、とほんのわずかに口元を緩めた。その表情に気づいたのは、彼の手をまだ握りしめているまふゆだけだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ