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二人だけの甘い空気が流れた、その時だった。
「……まふゆ」
背後から聞こえた小さな声と共に、ふわりとした衝撃がまふゆの背中を包み込む。振り返る間もなく、小さな腕がぎゅっと体に回された。
「アリス!?」
驚いて声を上げると、背中にぴたりと寄り添うアリスが、こてんとまふゆの肩に自分の頭を預けてくる。
その頭にも、まふゆとお揃いの、赤く鮮やかなリボン結びの鉢巻が飾られていた。
どうやら、まふゆがしてもらっているのを見て、自分もとクラスメイトに頼んだらしい。
「アリスも……おそろい」
アリスは言葉少なにそう言うと、自分も褒めてほしいとでも言うように、ぐりぐりと頭をまふゆの背中に押し付けてくる。
その仕草は、飼い主に甘える子猫のようで、あまりの愛らしさにまふゆの頬が自然と緩んだ。
「ふふ、ほんまやね。アリスもよう似合うとるよ。可愛ええなあ」
まふゆが振り返りながらその小さな頭を優しく撫でてやると、アリスは心地よさそうに目を細める。その表情は、学園に来た当初の無機質なものとは比べ物にならないほど豊かになっていた。
ミカゲは、そんな二人の様子を静かに見つめている。
かつて、自分が守れなかった少女の面影を持つホムンクルス。そして、その少女の代わりではなく、かけがえのない存在として愛する恋人。
その二人が姉妹のようにじゃれあう光景は、彼にとって何物にも代えがたい、守るべき日常そのものだった。
「……ミカゲも」
アリスはまふゆに抱きついたまま、ちらりとミカゲの方を見上げた。その視線は「ミカゲも褒めて」と訴えかけている。
ミカゲは小さく息をつくと、アリスの頭にもそっと手を伸ばし、くしゃりと一度だけ撫でた。
「……ああ」
短い肯定。それだけだったが、アリスにとっては十分だったらしい。彼女は満足げにふわりと笑うと、再びまふゆにぎゅっとしがみついた。
体育祭の喧騒の中、三人の周りだけは、まるで家族のような穏やかで温かな空気が流れている。
遠くからその光景を見ていたレオンハルトやセリウスは、微笑ましそうに顔を見合わせる。シャノンは「子供ね」と呆れたように言いながらも、その口元は少しだけ綻んでいた。
やがて、開会式を告げるファンファーレが鳴り響き、生徒たちの熱気が一段と高まる。
まふゆはアリスの手をとり、ミカゲと並んで、自分たちの組の列へと向かう。
胸に宿るのは、これから始まる戦いへの緊張と、大切な仲間たちと共に過ごせる喜びだった。




