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待ちに待った体育祭当日。
空はどこまでも青く澄み渡り、まるで生徒たちの高揚感を映しているかのようだ。
グラウンドには万国旗がはためき、組ごとに色分けされたテントが立ち並び、学園中がお祭りムード一色に染まっていた。
紅組のテントの中、まふゆはクラスメイトの女子たちに囲まれ、少し照れくさそうに椅子に座っていた。
「まふゆちゃん、髪が真っ白だから赤色がすっごく映えるね!」
「うんうん、可愛い!リボンみたいに結んであげる!」
器用なクラスメイトたちが、まふゆの頭に紅組の鉢巻をきゅっと結んでいく。
ただの鉢巻のはずが、彼女たちがアレンジすると、まるで可愛らしい髪飾りのように見えた。雪のような白い髪に、鮮やかな赤色がアクセントとなってよく似合っている。
「ど、どうやろか……?ちょっと派手すぎひん……?」
まふゆが不安げに尋ねると、女子たちは「ぜんっぜん!」「超似合ってる!」と口々に褒めそやす。そして、一人の女子が悪戯っぽく笑いながら、まふゆの背中をぽんと押した。
「ほら、ミカゲくんに見せに行きなよ!絶対、見惚れちゃうって!」
「そーだそーだ!行ってきなよ!」
「ええっ!?そ、そんな……!」
クラスメイトたちの後押しに、まふゆの頬がカッと熱くなる。
ミカゲが自分のことをどう思うか、気にならないわけがない。けれど、自分から見せに行くのは、なんだかとても恥ずかしい。
もじもじと躊躇するまふゆの背中を、友人たちは「はいはい、早く早く!」と優しく、しかし有無を言わさず押していく。
テントの外では男子たちがウォーミングアップをしたり、仲間と談笑したりしていた。
その一角に、ミカゲはいた。黒い運動着が彼の白い肌を一層際立たせ、黙っていても周囲から浮き立つような存在感を放っている。
彼はただ静かに、まふゆがいるであろうテントの方向をじっと見つめていた。
「ほら、ミカゲくん、あそこにいるよ!」
「うぅ……わ、わかったさかい、もう押さんといて……!」
観念したまふゆは、深呼吸を一つすると、意を決してミカゲの方へと歩き出した。
一歩、また一歩と近づくにつれて、心臓がとくとくと早鐘を打つ。
彼の前に立ち、どう切り出そうかと考えあぐねていると、先に気づいたミカゲがすっと顔を上げた。
彼の黒曜石のような瞳が、まふゆの姿を捉え、その頭に結ばれた赤いリボンでぴたりと止まる。
そして、ほんのわずか、ほんのわずかだけ、その瞳が見開かれたのをまふゆは見逃さなかった。
「あ、あの……ミカゲ……。その、クラスの子らが……やってくれて……変やないかな……?」
恥ずかしさで俯きながら、上目遣いで彼の反応を窺う。
ミカゲは何も言わない。ただ、静かにまふゆに近づくと、その白い指先でそっと赤い鉢巻に触れた。その予期せぬ行動に、まふゆの心臓が大きく跳ねる。
「……いや」
ようやく紡がれた、短い否定の言葉。
「……似合っている」
いつもの無表情はそのままに、しかしその声には、確かな愛しさが滲んでいた。
その一言だけで、まふゆの心は喜びでいっぱいに満たされる。恥ずかしさもどこかへ飛んでいき、自然とふわりと笑みがこぼれた。
「……!ほんま?よかった……」
その幸せそうな笑顔を、ミカゲは誰にも見せることなく、ただ自分だけのものとして瞳に焼き付けていた。
体育祭の喧騒の中、二人だけの甘い時間が、静かに流れていく。




