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出場競技も決まり、学園は日ごとに体育祭の色を濃くしていく。
廊下を歩けば、あちこちの教室から応援合戦の練習をする声が聞こえ、グラウンドでは各種目の練習に励む生徒たちの熱気が満ちていた。
A組とB組が所属する紅組の士気は、特に高かった。
その理由は、臨時担任であるA組のガンツと、C組の担任である熊族の獣人、ガレオスの間に流れる熾烈なライバル意識にあった。
「ふん、ガレオス。貴様のクラスの脳筋どもには負けん。戦いは、頭脳と戦略で決まるのだ」
「ぬぅん、ガンツ!小手先の技術で我ら獣人のフィジカルに勝てると思うなよ!」
廊下で鉢合わせるたびに、火花を散らす二人の教師。その静かなる闘志は生徒たちにも伝播し、「絶対に青組には負けられない!」という一体感をクラスにもたらしていた。
「ガンツ先生、普段は冷静なのに、ガレオス先生が絡むとすごい熱くなるよな」
「C組には身体能力が高い獣人が多いからな。ドワーフのガンツ先生としては、技術と戦略で一泡吹かせたいんだろう」
教室でそんな噂話をしながら、レオンハルトとセリウスも楽しそうに笑っている。
お祭り騒ぎが好きな生徒たちにとって、教師たちのライバル関係は格好のスパイスとなっていた。
「みんな、すごく張り切ってはるなあ。うちも頑張らんと」
まふゆは、活気にあふれる学園の様子を微笑ましく眺めながら、自分も借り物競争の練習(という名のお題予想)に熱を入れる。
隣ではリリアも「『綺麗な石』とかだったら楽なんだけどなー」と一緒に頭を悩ませていた。
そんな中、リリアは時折、廊下の向こうでリレーの練習に励むレオンハルトの姿を目で追ってしまう。
カップルレースに誘えなかった、あの日の後悔がちくりと胸を刺す。
(やっぱり、勇気を出して言えばよかったかなぁ……でも、もし断られたら……)
ぐるぐると巡る思考に、リリアは小さくため息をついた。
そんな彼女の様子に、まふゆはそっと声をかける。
「リリア、体育祭、楽しみやね。リレーに出るみんなの応援、一緒にしよな」
「うん、もちろんだし!あーし、メガホン作って応援するんだから!」
友人の優しい言葉に、リリアはぱっと顔を上げた。
そうだ、今はくよくよしている時じゃない。体育祭を思いっきり楽しむんだ。
そして、彼の力になれるように、誰よりも大きな声でエールを送るのだ。
リリアはきゅっと拳を握りしめた。
体育祭当日まで、あと数日。
生徒たちの期待と熱気は、澄み渡る秋空の下で、刻一刻と高まっていくのだった。
第三十二話・了




