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続いて男子の100m走が始まった。
獣人や身体能力に優れた種族の生徒たちが、次々と驚異的なタイムを叩き出していく。
その中でも、レオンハルトは王族らしい気品と力強さを兼ね備えた走りで、上位に食い込むタイムを記録した。
セリウスも、細身の体躯からは想像もつかない俊敏さを見せ、兄に迫る好成績を収める。
そして、ミカゲの番が来た。
彼はスタートラインに立っても、表情一つ変えない。まるでそこに存在しないかのように気配を消していたかと思えば、ピストルの音と同時に黒い疾風となってトラックを駆け抜けた。
暗殺者として鍛え上げられた肉体は、無駄な動きが一切なく、しなやかで力強い。その走りは、他の生徒たちとは明らかに異質だった。
全生徒のタイム測定が終わり、ガンツがリレー選手のリストを張り出すと、グラウンドのあちこちから歓声やどよめきが起こった。
「よしっ!見たか、お前ら!」
レオンハルトが自分の名前を見つけて、誇らしげにガッツポーズをする。セリウスとミカゲの名前も、彼のすぐ下にあった。
「ふふん、当然の結果ね」
そして、男子生徒の名前がずらりと並ぶ中、紅一点、シャノンの名前が燦然と輝いていた。
猫族の俊敏さを遺憾なく発揮した彼女は、見事に女子トップのタイムを叩き出し、リレー選手の座を勝ち取ったのだ。
「すごい……!いつものメンバーから、四人も選ばれてるやないの……!」
まふゆは、友人たちの名前が並ぶリストを見上げて、感嘆の声を上げた。
レオンハルト、セリウス、ミカゲ、そしてシャノン。まさか、いつも共に過ごす仲間から四人も代表選手が選ばれるとは。
「ふふん、当然でしょ。ま、ノセと一緒なのは癪だけど」
シャノンはそっぽを向きながらも、その口元は嬉しそうに緩んでいる。
「よろしく頼むよ、シャノン」
セリウスが穏やかに微笑むと、シャノンは「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「リレー、楽しみやね!みんなのこと、精一杯応援するさかい!」
まふゆが笑顔で言うと、リリアも「あーしもー!」と元気に手を挙げる。
「みんな、すごーい!特にレオンハルト様、めちゃくちゃかっこよかったしー!」
リリアは目をきらきらと輝かせながら、憧れの王子様を見つめた。その純粋な賛辞に、レオンハルトは少し照れくさそうに頭を掻く。
「はは、サンキュな、リリア。お前の応援があったから、力が出たのかもな」
「えっ!?ほ、ほんとー!?」
レオンハルトの何気ない一言に、リリアの顔がぱっと赤く染まる。
(あ、あーしの応援で……?)
その言葉が、リリアの心の中で何度も繰り返される。振られたとはいえ、まだ燻っていた恋心が、再びぽっと小さな炎を灯した瞬間だった。
(あーしの応援が、レオンハルト様の力に……!)
単純な彼女は、その事実だけで天にも昇るような気持ちになっていた。
体育祭の本番では、もっともっと大きな声で応援しよう。そして、かっこいいレオンハルト様の姿を、この目に焼き付けよう。
リリアは胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、新たな決意を固めるのだった。
友人たちの活躍を喜び、自分の恋心に胸をときめかせるリリアの姿を、まふゆは優しい眼差しで見守っていた。
体育祭という晴れの舞台が、この健気な友人の背中を、そっと押してくれることを願いながら。




