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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十二話 黒の少女の夢
372/424

32-7




ホームルームでの競技決めが終わり、午後の授業は体育祭の合同練習に充てられることになった。


A組とB組の生徒たちがぞろぞろと広大なグラウンドに集まる。

目玉競技であるクラス対抗リレーの選考会を兼ねた、50m走のタイム測定が始まるのだ。


強い日差しが照りつけるトラックの脇に、生徒たちはクラスごとに整列する。

紅組となるA組とB組の生徒たちの中には、期待に胸を膨らませる者、緊張に顔を強張らせる者、様々な表情が入り混じっていた。


「うう……走るの、苦手なんやけどなあ……」


まふゆは、慣れない運動着の袖をそわそわと弄りながら、自信なさげにため息をついた。

隣に立つリリアも、同じように不安げな顔で唇を尖らせている。


「あーしもだよぉ……。足、もつれて転ばないかなぁ……」

「アリスも、はしる……?」


一方、アリスは「走る」という行為そのものがよく分かっていないのか、不思議そうに小さな首をこてんと傾げていた。

その純真無垢な様子に、まふゆとリリアは思わず顔を見合わせて苦笑する。


「大丈夫だ、まふゆ。全力で走ればいい。タイムなんて気にするな」


そんな女子たちの不安を察してか、少し離れた男子の列からレオンハルトが励ましの声を飛ばす。彼の隣では、セリウスも穏やかな笑みを浮かべていた。


「そうだね。怪我をしないことが一番だよ」


ミカゲは何も言わないが、その視線はただ一点、まふゆにだけ注がれている。まるで彼女を守るかのように、その場から動かない。




「よし、貴様ら、準備はいいか!まずは女子からだ!名前を呼ばれた者からスタートラインにつけ!」


ガンツの号令が響き渡り、女子生徒たちが数人ずつ呼び出されていく。

シャノンは「あたしが一番よ!」と闘志を燃やし、しなやかな体躯を躍動させて風のようにトラックを駆け抜けていった。


やがて、まふゆとリリア、そしてアリスの名前が呼ばれる。


「うぅ……いよいよや……」

「まふゆん、がんばろ……!」

「アリス……がんばる……」


三人は顔を見合わせ、小さく頷きあうと、覚悟を決めてスタートラインへと向かった。




ピストルの乾いた音が青空に響き渡る。


まふゆは必死に腕を振り、足を動かす。隣ではリリアが必死の形相で走り、アリスは教えられた通りに、ただ真っ直ぐ前を見てとてとてと懸命に足を動かしていた。


観戦していた男子生徒たちの中から、ひときわ大きな声援が飛ぶ。


「いけー!まふゆ、頑張れー!リリアも負けるなよー!」


声の主は、もちろんレオンハルトだった。

その力強い声援に、リリアは一瞬だけ驚いたように彼の方を見た。

自分に向けられた、真っ直ぐな応援。その事実に、彼女の胸がきゅんと音を立てる。


(レオンハルト様が、応援してくれてる……!)


その単純な事実が、リリアの足に新たな力を与えた。




ゴールテープを切った時、三人はすっかり息を切らしていた。

タイムは決して速いとは言えなかったが、最後まで走り切った達成感に満たされていた。


リリアはぜえぜえと肩で息をしながらも、その頬はほんのりと赤く染まり、その目は嬉しそうに輝いていた。




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