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翌日のホームルーム。
エドウィンが逃亡したことで空席となった担任の座には、臨時としてドワーフの教師、ガンツが就いていた。
彼はカチャリと眼鏡のブリッジを押し上げ、教壇から冷静な視線を生徒たちに注ぐ。
「聞け、貴様ら。来週に迫った体育祭だが、出場競技の最終決定を行う。女子は50m走、男子は100m走が必須。それ以外に、希望制の選択競技へ最低一つはエントリーすること。……C組のガレオスには負けるつもりはない。貴様ら、せいぜいA組の名に恥じぬよう励め」
ガンツの静かだが熱のこもった檄に、クラスの空気も俄かに活気づく。
配られた競技一覧のプリントを前に、生徒たちはわいわいと相談を始めた。
「必須競技以外か……俺は障害物走にでも出るかな」
レオンハルトが力こぶを作って見せれば、セリウスもペンを片手に頷く。
「僕もそうしようかな。兄さん、男子生徒全員参加の騎馬戦ではよろしく頼むよ」
「……俺は、あんたと同じものに出る」
後ろの席から聞こえてきた低い声に、まふゆは苦笑しながら振り返った。
恋人になってからというもの、ミカゲの独占欲はますますわかりやすくなっている。
「ふふ、ミカゲはほんまにうちのこと好きやなあ。でも、体育祭くらいは自分の出たいものに出てもええんよ?」
「……あんたが出るなら、それが俺の出たいものだ」
「もう……」
「ミカゲも俺らと一緒に障害物走に出ようぜ!」
「おい、勝手に書くな」
ミカゲの真っ直ぐな言葉に頬を染めつつ、まふゆは再びプリントに視線を落とす。
必須の50m走はともかく、もう一つは何にしようか。運動はそれほど得意ではない。
「……うーん。うち、借り物競争にしよかなあ」
ぽつりと呟いたまふゆの言葉に、隣のセリウスが「へえ」と興味深そうな声を上げた。
「借り物競争か。まふゆらしい選択だね。運が良ければ楽にクリアできるし」
「せやね。お題次第やけど、走る距離も短く済みそうやし」
まふゆがそう言って微笑むと、レオンハルトがにやりと笑った。
「お題が『好きな人』だったらどうするんだ?そんときゃ、ミカゲを連れてゴールだな!」
「なっ……!レオンハルト、からかわんといて!」
顔を真っ赤にするまふゆと、満足げなレオンハルト。そして、そのやり取りを無表情ながらどこか得意げに見つめるミカゲ。
そんな和やかな光景を、シャノンが少し離れた席から腕を組んで眺めていた。
「ふんっ、あんたたち、浮かれてんじゃないわよ。あたしは障害物走に出るからね。ノセ、負けないからね!」
「いやいや、僕ら同じチームだからね?」
挑発しあうシャノンとセリウスも、どこか楽しそうだ。




