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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十二話 黒の少女の夢
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32-5




リッタに導かれるまま研究室に足を踏み入れると、そこは想像を遥かに超える空間だった。


壁一面に並べられた工具、天井から吊り下げられた複雑な配線、そして床には分解された機械の部品が無数に転がっている。


まるで秘密基地のようなその光景に、レオンハルトやセリウスですら感嘆の声を漏らした。


「すげえな、こりゃ……」

「まるで巨大な絡繰時計の中にいるみたいだ」




研究室の奥、巨大な作業台の上で溶接マスクを被り、火花を散らしていた小柄な人物が、一行の気配に気づいて作業の手を止めた。


マスクを外すと、現れたのはそばかすがチャーミングなドワーフの女性教師、フローラだった。


「おや、リッタだけじゃないみたいだね。A組の有名人さんたちじゃないか。ボクの研究室に何の用だい?」


フローラは悪戯っぽく笑い、オイルで汚れた手を布で拭う。その目は好奇心に満ちてきらきらと輝いていた。


「先生!この子たちも、新しい魔導機の開発に興味があるみたいなんじゃ!」


リッタが先んじて用件を伝えると、フローラの目が興味深そうに細められる。


「ほう、新しい魔導機……。リッタから話は聞いているよ。エルフの命を使わない、クリーンな魔力機関。……壮大だけど、とても面白いテーマだ」


フローラはリリアに向き直り、その真意を探るようにじっと見つめた。


「君が中心になって進めるのかい?ダークエルフの君が、どうしてまた?」


その問いに、リリアは一瞬言葉を詰まらせたが、隣に立つまふゆの存在に勇気づけられ、真っ直ぐに顔を上げた。


「あーし、戦うのは苦手なんです。でも、薬とか、こういう技術でなら、誰かの力になれるんじゃないかって……。それに、大事な友達が、アルビノエルフだから……。もう二度と、あの子たちが悲しい思いをするのは見たくないんです」


その言葉には、かけがえのない友人であるまふゆへの深い愛情が込められていた。




「……そっか。いいね、そういうの、ボクは好きだよ」


フローラは満足そうに頷くと、作業台の上に広げられた設計図を指さした。


「ちょうどいい。今、リッタと一緒に新しい動力源の基礎理論を考えていたところなんだ。君たちの知恵も貸してくれるなら、大歓迎さ。……ただし」


フローラは人差し指を立て、悪戯っぽく笑う。


「このプロジェクトに参加するなら、体育祭でもきっちり結果を出してもらうよ。文武両道、それがボクのモットーだからね!特にそこの王子様たち、期待してるからね!」


フローラの視線を受けて、レオンハルトはニヤリと笑い、力強く胸を叩いた。


「望むところだ!見ててください、先生。俺たちの力、見せてやりますよ!」

「ふふ、頼もしいじゃないか」

「はいっ!あーしも、頑張りますっ!」


フローラ先生とレオンハルトの力強い言葉に、リリアは満面の笑みで大きく頷いた。


もう彼女の顔に、先ほどまでの曇りはない。

目の前に開かれた確かな道と、共に歩んでくれる心強い仲間たちの存在が、彼女に大きな勇気を与えてくれたのだ。


「うんうん、その意気だよ!それじゃ、体育祭が終わったら、また改めてここにおいで。それまでに、ボクも基礎設計をもう少し進めておくからさ」


フローラは満足そうに笑い、ポンとリリアの頭に手を置いた。


「それじゃ、うちらはこれで失礼します。フローラ先生、リッタさん。今日はほんまにありがとうございました」


まふゆが代表して丁寧に頭を下げると、他のメンバーもそれに倣う。


「気にするでない。リリアの夢は、ワシの夢でもあるからのう」


リッタは少し照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張った。




研究室を後にした一行は、夕日に染まる廊下を歩きながら、自然と体育祭の話題に戻っていた。


「これで心置きなく体育祭に集中できるな、リリア!」


レオンハルトが朗らかに言うと、リリアは「はいっ!」と元気よく返事をする。


「うん!もう悩みもないし、思いっきり楽しむんだからー!レオンハルト様も、応援してるからねー!」

「はは、サンキュな!」


その屈託のない笑顔を見て、まふゆも自分のことのように嬉しくなった。

リリアの大きな決意が、こうして確かな一歩を踏み出した。そのきっかけに立ち会えたことが、胸に温かい光を灯す。


(よかった……リリア、これで体育祭も心から楽しめるやろな)


友人たちの賑やかな会話を聞きながら、まふゆはそっと微笑んだ。


白檻会との戦いを経て、それぞれが傷つき、悩みながらも、こうして前を向いて歩き出している。


かけがえのない仲間たちと共に過ごす、この何気ない日常こそが、何よりも尊い宝物なのだと、まふゆは改めて感じていた。


秋の日は短く、学園の窓から見える空はすでに深い茜色に染まっている。

体育祭という新たな舞台に向けて、彼らの心は一つにまとまり、明日への期待に胸を膨らませていた。




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