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放課後を告げる鐘が鳴り響くと、まふゆたちは示し合わせたように席を立った。
目指すは、機械技術担当の教師、フローラの研究室だ。
「フローラ先生の研究室って、確か東棟の最上階だったよね?」
「ああ。ドワーフの先生だけあって、工房みたいな部屋だって聞いたことがある」
レオンハルトとセリウスが先導し、一行は活気に満ちた廊下を進んでいく。
リリアは期待と緊張が入り混じった表情で、まふゆの隣を歩いていた。その小さな背中を、まふゆは励ますように優しく撫でる。
「大丈夫。フローラ先生は、きっと力を貸してくれはるよ」
「うん……!まふゆん、ありがとう」
リリアはこくりと頷き、ぎゅっと拳を握りしめた。
ミカゲはいつものように少し離れた場所から、全員、特にまふゆから片時も目を離さずに後を追う。アリスはそんなミカゲの服の裾をちょこんと掴み、とてとてとついてきていた。
やがて一行は、油と金属の匂いが微かに漂う扉の前にたどり着く。
『機械技術研究室』と書かれたプレートの下には、小さな文字で『担当:フローラ』と記されていた。
「ここか……よし、俺が話してみる」
レオンハルトが代表して扉をノックしようとした、その時だった。
扉が内側から勢いよく開かれ、中から小柄な少女が飛び出してきた。
「おっと!」
「うわっ!」
危うくレオンハルトとぶつかりそうになった少女は、慌てて数歩後ずさる。
おさげ髪にしたオレンジの髪。力強い意志を宿したヘーゼル色の瞳。その体躯は小柄だが、ドワーフ族特有のがっしりとした骨格をしていた。
「おっと、すまんのう。ちいと急いでおったんでな」
年の頃は十代前半に見えるが、その口調はまるで年老いた職人のようだ。
彼女こそ、リリアの友人であり、B組に所属するドワーフの少女、リッタ・ストーンベルだった。臨海学校の時、花火を上げていた少女でもある。
「リッちゃん!?」
「おお、リリアか。それに、A組の連中も揃って、どうしたんじゃ?」
リッタは驚いたように目を丸くした後、一行の顔ぶれを見回した。
「ちょうど良かった!実は、フローラ先生に相談したいことがあって……」
リリアが事情を説明しようとすると、リッタは「ふむ」と顎に手を当てて頷いた。
「フローラ先生になら、ワシからも話を通しておいてやろう。……ちょうど、ワシも新しい魔導機のことで先生と話しとったところじゃ」
「えっ、本当!?」
思わぬ偶然に、リリアの声が弾む。
リッタはニヤリと口の端を上げ、悪戯っぽく笑った。
「ああ。おまえさんの夢、ワシにも手伝わせんかい。エルフの命なんぞ使わんでも、ワシらの技術とリリアの知識があれば、もっとすごいモンが作れるはずじゃ。……そうじゃろ?」
その力強い言葉に、リリアの瞳に再び涙が浮かぶ。
一人で始めた夢が、こうして次々と仲間を集めていく。その事実に、胸が熱くなった。
「う、うん……!ありがとう、リッちゃん……!」
「礼には及ばん。さて、立ち話もなんじゃ。中に入れ。先生も、お前さんたちの話なら聞いてくれるじゃろう」
リッタに促され、まふゆたちは期待を胸に、未知の技術が眠る研究室へと足を踏み入れた。




