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リリアは、テーブルに置かれた自分の両手を見つめながら、ぽつり、ぽつりと胸の内を吐露し始めた。
「あのね……白檻会のことがあって、魔導機がエルフの人の命で作られてたってわかったじゃん?……それでも、まだ魔導機を使ってる人、いっぱいいるでしょ」
その言葉に、食堂の喧騒が少しだけ遠のくように感じられた。
白檻会が壊滅し、その非人道的な実態が世界に暴かれても、一度普及してしまった便利な道具を、人々は簡単には手放せなかった。本拠地にあった魔導機はすべて破壊されたが、
すでに世に出回っているものは、今も誰かの手の中にある。
「あまりにも便利だから……それを一斉に捨てるなんて、できないんだよね。わかってるんだけど……でも、やっぱり、それを見るたびに胸が苦しくなるっていうか……」
リリアの声は、普段の明るさからは想像もつかないほどか細い。
ダークエルフでありながら戦いを好まず、薬学の道で他者を支援したいと願う彼女にとって、エルフの命を糧とする魔導機の存在は、耐えがたいものだったのだろう。
「だから、決めたんだ。……あーしが、新しい魔導機を作るの」
決意を込めたその言葉に、皆が息を呑んだ。
「エルフの人の命を犠牲にしなくてもいい……安全で、誰でも魔術が使えるようになる、そんな魔導機を、あーしが開発するんだって」
その真っ直ぐな瞳には、確かな光が宿っていた。
しかし、その大きな目標を前に、自分の無力さを感じているのもまた事実なのだろう。彼女の表情には、希望と共に、拭いがたい不安の色が滲んでいた。
「すごいことやないの、リリア。そないなこと、考えとったんやね」
まふゆは心からの感嘆を込めて言った。
同じエルフ族のために、こんなにも真剣に考えてくれている友人の存在が、胸に温かく広がっていく。
「でも、どうやって……?魔導機の開発なんて、国の研究機関でも難しいって聞くけど……」
セリウスが現実的な懸念を口にする。彼の言う通り、それは一個人が成し遂げるにはあまりにも壮大な計画だった。
「……うん。だから、まずはもっと勉強しなきゃって思って。授業も真面目に受けてるし、B組のリッちゃん……リッタにも色々教えてもらってるんだけどー……」
リリアは言い淀み、少しだけ視線を彷徨わせた。
「でも、やっぱり限界があって……。どうしたらいいのかなって、ちょっと……考えちゃってた感じ?」
そう言って、彼女は力なく笑った。体育祭を前にして心から楽しめないでいたのは、この大きな夢と現実の壁に、一人で悩んでいたからなのだろう。
その健気な姿に、仲間たちは皆、何か力になれないかと考え始めていた。




