31-12
その頃、まふゆ達は──。
「こっちだ」
ミカゲを先頭に、まふゆとアリスは薄暗い坑道を駆けていた。
背後からは追手の怒号と複数の足音が迫り、緊迫した空気が肌を刺す。
まふゆはアリスの手を固く握り、遅れないように必死で足を動かした。
「はぁ……っ、はぁ……!」
「まふゆ……大丈夫……?」
息を切らすまふゆを、アリスが心配そうに見上げる。ユキに乗っ取られていた影響か、アリスの顔色もまだ優れない。
「大丈夫。アリスこそ、無理したらあかんよ」
励ますように微笑みかけるが、状況は決して楽観できるものではなかった。
分かれ道に差し掛かるたびにミカゲが的確な指示を出すものの、まるで蟻の巣のように入り組んだ坑道は、敵のホームグラウンドだ。いつ追いつかれ、包囲されてもおかしくない。
「ミカゲ、敵が……!」
まふゆが叫んだ瞬間、前方の曲がり角から複数の人影が飛び出してきた。白檻会の兵士たちだ。退路を断たれ、挟み撃ちの形になる。
「ちっ……!」
ミカゲが舌打ちし、黒い刃を構え直す。まふゆも咄嗟にアリスを背中にかばい、両手に治癒とは異なる、守りのための光──聖なる障壁の魔力を練り上げた。
絶体絶命。誰もがそう思った、その時だった。
ザザ……ッ、とミカゲが腰につけていた通信用の魔石から雑音が走った。そして──。
『──こちらガンツ。聞こえるか』
その声が響くと同時に、坑内を照らしていた魔石灯が一斉に消え、兵士たちが構えていた魔導機が沈黙した。
先ほどレオンハルトたちが経験したのと全く同じ現象が、この場所でも起きたのだ。
「なっ……!?」
突然の暗闇と、頼りの綱である魔導機の停止に、兵士たちが完全に動揺する。
その一瞬の隙を、ミカゲが見逃すはずがなかった。
「まふゆ、光を」
「うん!」
まふゆは頷くと、掌に柔らかな光球を生み出し、周囲をぼんやりと照らし出した。
その光に浮かび上がったのは、暗闇に溶け込むように敵兵の背後を取ったミカゲの姿。
彼の黒い刃が、音もなく振るわれる。それは命を奪う一撃ではなく、相手の意識を的確に刈り取る、無駄のない一閃だった。
悲鳴を上げる間もなく、兵士たちは次々とその場に崩れ落ちていく。
「……行くぞ。合流地点はもうすぐだ」
あっという間に脅威を排除したミカゲが、静かに告げる。彼の冷静さと圧倒的な実力に、まふゆは改めて息を呑んだ。
「うん……!ミカゲ、ありがとう」
「……あんたが無事でよかった」
短い言葉の中に込められた確かな想いを感じながら、まふゆはアリスの手をもう一度強く握りしめた。三人は再び、仲間たちが待つ場所へと駆け出した。
崩壊を始めた悪の巣窟の中で、希望の光は、すぐそこまで迫っていた。




