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ミカゲの腕の中で、彼の確かな温もりと心臓の鼓動を感じながら、まふゆの心は激しく揺さぶられていた。
代用品ではなかったという安堵、偽りではなかったという喜び、そして、裏切られたという絶望から解放されたことによる、どうしようもないほどの感情の奔流。
涙がまた溢れそうになるのを、必死に堪える。
けれど、その瞬間、轟音と共に破られた扉の向こう──今もなお続くであろう戦いの音が、ふと意識に蘇った。
「……!せや、みんなは……!?」
はっと我に返ったまふゆは、ミカゲの胸を押し返すようにして顔を上げた。
レオンハルトたちが、学園のみんなが、自分たちを助けるために命がけで戦ってくれている。
自分だけがこうして安堵に浸っている場合ではなかった。
「ミカゲ!レオンハルトたちは無事なん!?外の様子は!?」
矢継ぎ早に問いかけると、ミカゲは「ああ」と短く頷き、まふゆを抱いていた腕をそっと解いた。その瞳は既に、感傷から戦士のそれへと切り替わっている。
「陽動は成功している。だが、敵の数が多い。長くは保たないだろう」
彼は振り返り、床に座り込んだまま呆然としているアリスに視線を落とした。
「アリス、立てるか」
「……うん」
アリスはこくりと頷き、おぼつかない足取りで立ち上がる。そして、何かに引き寄せられるように、とてとてとまふゆの傍へ寄り、その服の裾をぎゅっと握りしめた。
その小さな手が、不安に震えているのが伝わってくる。
「二人とも、俺から離れるな」
ミカゲは黒い刃を構え直し、鋭い視線を扉の向こうへと向けた。
「ここから脱出する。俺が道を切り開く」
その背中は、いつも見ていたものよりずっと大きく、頼もしく見えた。
過去の呪縛から解き放たれ、守るべきもののために戦う覚悟を決めた、一人の男の背中だった。
「うちも、戦う」
まふゆも決意を固め、両手に治癒の光を灯した。今は、彼の隣で戦うことこそが、自分の答えだと思ったから。
「ミカゲの背中は、うちが守る。アリスも、うちが絶対に守るから」
「……まふゆ」
アリスが不安そうに、しかし信頼を込めてまふゆの名を呼ぶ。
「行くぞ」
ミカゲの短い号令を合図に、三人は固い絆で結ばれた一つの塊となって、戦火の渦巻く坑道へと駆け出した。
絶望の牢獄からの脱出は、これから始まる反撃の序曲に過ぎなかった。




