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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十一話 少女は学園に愛される
357/424

31-7




来ないで、と願う心とは裏腹に、運命の足音は刻一刻と近づいてくる。


遠くで響いていた戦闘の轟音が、徐々に、しかし確実にこちらへ迫っていた。

それはまるで、まふゆの心臓を締め上げるカウントダウンのようだった。




そして、その瞬間は、唐突にやってきた。


ドォォォンッ!!


凄まじい衝撃音と共に、牢獄の重厚な扉が内側へ向かってくの字に折れ曲がり、蝶番から弾け飛んだ。


舞い上がる粉塵の向こう、逆光の中に佇む一つの人影。

闇色の装束を纏い、その手には血の滴る黒い刃が握られている。息を切らし、肩で呼吸を繰り返しながらも、その黒曜石の瞳はまっすぐに、牢獄の中を見据えていた。


「……ミカゲ……」


まふゆの唇から、名前が音にならずにこぼれ落ちる。


来てしまった。

彼が、来てしまった。

一番会いたくて、でも、一番会いたくなかった人が。


ミカゲの視線が、牢獄の中にいる二人のアルビノエルフを捉える。


一人は、絶望に染まった瞳で床に座り込む、愛しい少女。

もう一人は、彼女と瓜二つの姿で、挑発的な笑みを浮かべて佇む、三百年前の幻影。


「クロ……」


ユキが、恍惚とした声でその名を呼んだ。


「来てくれたのね。やっぱりあなたは、私の大切な()だわ」


彼女はしなやかな動きで立ち上がると、ミカゲに向かって優雅に一歩を踏み出す。


ああ、終わった。

まふゆは、目を閉じることさえできなかった。

ミカゲの瞳が、ユキの姿を捉えて、確かに揺れたのを、見てしまったから。


彼の腕は、これから彼女を抱きしめるのだろう。三百年の時を超えた再会を、果たすのだろう。

自分という存在は、その感動的な物語の、ただの脇役でしかなかったのだ。


心臓が、凍りつく。

呼吸が、止まる。

世界から、音が消える。










ミカゲが、動いた。




粉塵を蹴り、まっすぐに。


ユキの横を、まるで存在しないかのように通り過ぎて。




その腕は、強く、迷いなく。











床に座り込み、全てを諦めていたまふゆの身体を、乱暴なほどに、しかし壊れ物を扱うかのように優しく、抱きしめていた。








「……え……?」


温かい。


彼の腕の中は、いつもみたいに、温かくて、安心する匂いがした。


信じられないという想いで顔を上げると、ミカゲの苦しげな、それでいて必死な顔がすぐそこにあった。


「……間に、合った……」


彼の声は、ひどく掠れていた。


「まふゆ……すまない、遅くなった。怖かっただろう……」


ミカゲは、まふゆを見ている。

ユキではなく、他の誰でもない、水鏡まふゆだけを、その瞳に映している。




「な……んで……?」


まふゆの震える声が、静かな牢獄に響いた。


「うち、は……代用品、なのに……なんで、ユキさんのところへ行かへんの……?」


その問いに、ミカゲはまふゆを抱く腕にさらに力を込めた。


「違う」


彼の声は、今までにないほど力強く、確信に満ちていた。


「あんたは、代用品なんかじゃない。俺が愛しているのは、ユキじゃない。……まふゆ、あんただ」




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