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光の渦が消えた先は、冷たい岩肌と錆びついた鉄の匂いが混じり合う、荒涼とした大地だった。
かつてドワーフたちが槌音を響かせたであろう廃鉱山は、今は不気味な静寂に包まれ、巨大な口を開けて侵入者を待ち構えている。
ミカゲは転移門を抜けると同時に、即座に身を低くして周囲の気配を探った。
影と闇に親和性を持つ彼の感覚が、この場所に漂う淀んだ魔力と、複数の生命反応を捉える。見張りの兵士だろう。数は多くないが、油断はできない。
彼は音もなく近くの岩陰に身を滑り込ませ、闇に溶け込む。
暗殺者として生きてきた三百年間で、彼の身体に染みついた動きだ。気配を完全に消し、生命の痕跡すら感知させない。それは、彼が忌み嫌いながらも、唯一頼れる力だった。
(……まずは内部へ。まふゆたちの居場所を探す)
心の中で呟き、ミカゲは鉱山の入り口へと向かう。
その直後、彼の背後で再び空間が歪み、レオンハルトを先頭にした陽動部隊が姿を現した。
「ここが……白檻会の巣か」
レオンハルトは腰の剣に手をかけ、憎悪に満ちた目で鉱山を睨みつける。
「おい、見ろ!侵入者だ!」
早速、彼らの存在に気づいた見張りの兵士が叫び、警報の鐘がけたたましく鳴り響いた。
鉱山の奥から、武装した兵士たちが次々と姿を現す。
「よし、予定通りだ!皆、派手にいくぞ!」
レオンハルトの咆哮が戦いの開始を告げる。
「俺たちの仲間を攫った落とし前、きっちりつけてもらうぞ!」
ガレオスを筆頭に、屈強な生徒たちが雄叫びを上げ、敵陣へと突撃していく。
剣と斧がぶつかり合う金属音、魔術が炸裂する轟音が、静寂を破って夜空に木霊した。
陽動部隊が敵の注意を完全に引きつけている隙に、ミカゲは影から影へと飛び移るようにして、誰にも気づかれずに鉱山の内部へと侵入を果たす。
内部は迷路のように入り組んだ坑道が続いていた。壁には、牢獄と同じ魔石が埋め込まれ、不気味な青白い光が通路を照らしている。
空気はひどく澱み、鉄錆の匂いに混じって、微かに薬品のような刺激臭と、そして──絶望の匂いがした。
(この奥か……)
ミカゲは感覚を研ぎ澄ませ、最も魔力の反応が濃い場所へと向かう。
彼の脳裏には、エドウィンに連れ去られる寸前の、まふゆの絶望に染まった顔が焼き付いていた。
『……うそつき』
もし、彼女にそう言われたら、自分は何と答えればいいのか。
許しを乞う資格などない。だが、それでも。
(待っていろ、まふゆ)
ミカゲは固く拳を握りしめた。
今はただ、彼女をこの腕に取り戻すことだけを考える。
そのために、彼は三百年間培ってきた闇の全てを、今、仲間を救うための刃として振るう覚悟を決めていた。




