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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十話 賭け
349/424

30-7




一同は講堂に移り、作戦会議を始める。


中央に集うレオンハルトたちを、学年や種族の垣根を越えた大勢の生徒たちが固唾を飲んで見守っている。

その輪に加わる教師たちの存在が、この蜂起がただの学生の暴走ではないことを示していた。




「まず、敵の本拠地だが……見当はついているのか?」


ガレオスが腕を組み、重々しい声で問う。


その問いに答えたのは、意外にもドワーフの教師ガンツだった。

彼は自身の端末を操作しながら、冷静に口を開く。


「白檻会の表向きの本部は王都にある。だが、エドウィンのような幹部クラスが人体実験などの非道な研究を行う場所は、そこではないはずだ。もっと人目につかず、広大な土地と設備が必要になる」

「心当たりがあるんですか、ガンツ先生?」


セリウスが食いつくように尋ねた。


「あくまで推測だがな」


ガンツは眼鏡の奥の目を細める。


「我が故郷、ドワーフの国境近くに、数年前に放棄された巨大な鉱山がある。そこを白檻会が『希少鉱物の研究施設』という名目で買い取ったという話を、同郷の者から聞いたことがある。今思えば、そこで『魔導機』の核となる『素材』……つまり、エルフたちの命を加工していたとしても不思議ではない」




「ドワーフの国境近くの鉱山……!」


レオンハルトの目に光が宿る。闇の中に、確かな一条の光が差した瞬間だった。


「待って。でも、どうやってそこまで行くの?学園からかなり離れてるんじゃない?」


シャノンが現実的な問題を口にする。馬車を使えば何日もかかる距離だ。それではまふゆとアリスの身が危ない。


その時、ローゼリアが艶然と微笑んだ。


「心配いらないわ、シャノンちゃん。こういう時のために、学園には『転移門』があるじゃない」

「しかし、あれは学園長と一部の教師しか起動権限が……」


セリウスが言いかけると、ローゼリアは人差し指を唇に当てて「しーっ」とウィンクする。


「私、学園長室の鍵のありか、知ってるのよ。こういう時のための『秘密』ってわけ。ね?」


教師たちの頼もしさに、生徒たちから安堵と感嘆の声が漏れる。




だが、ミカゲは黙って俯いていた。レオンハルトに殴られた頬が、まだジンジンと熱を持っている。しかし、それ以上に、彼の心は別の痛みで軋んでいた。


(俺が……まふゆを絶望させた……)


ユキの代わり。その言葉が、彼女の心をどれほど深く傷つけたか。想像するだけで、胸が張り裂けそうだった。

今、彼女はどんな顔で、どんな想いで、あの冷たい馬車の中にいるのだろう。


(俺が行って、彼女は……顔を見たいと思ってくれるだろうか)


絶望させておきながら、どの面下げて「助けに来た」と言えるのか。

彼女を救い出す資格が、自分にあるのだろうか。


灯りかけた決意の炎が、自己嫌悪の冷たい風に揺らぐ。




「──ミカゲ」


不意に、低い声で名前を呼ばれた。

顔を上げると、レオンハルトが真っ直ぐにこちらを見ていた。その瞳には、先程の怒りとは違う、静かな力が宿っている。


「お前が何を考えているか、なんとなく分かる。だがな、今は感傷に浸ってる場合じゃない。お前の力が必要だ」

「……俺の、力」

「そうだ。白檻会の施設は、おそらく厳重な警備が敷かれている。正面から乗り込むのは愚策だ。だが、お前がいれば……影に潜んで内部に侵入し、状況を探ることができる。誰よりも静かに、誰よりも深く」


レオンハルトの言葉は、ミカゲの存在価値を、その能力の重要性を改めて示していた。

暗殺者として培ってきた技術。人を殺めるためだけの、忌むべき力だと思っていたものが、今、仲間を救うための鍵になる。


「……分かった」


ミカゲは短く応え、固く拳を握りしめた。


そうだ。今は、悩んでいる暇も、後悔している暇もない。

彼女に許されなくとも、軽蔑されようとも、まずは救い出さなければ始まらない。

どんな顔をされようと、もう一度、彼女の前に立つ。


そして、今度こそ伝えるのだ。

偽りではない、本当の想いを。


ミカゲの瞳に、迷いの色はもうなかった。

黒曜石の瞳は、ただ一点、救い出すべき少女のいる闇の先を、鋭く見据えていた。




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