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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三十話 賭け
343/424

30-1




ガタガタと不快な振動が、身体の芯まで響いてくる。


鉄の格子がはめられた荷台の中、まふゆはアリスと背中合わせになるように座らされていた。手首には魔力を封じる枷がはめられ、冷たい感触が体温を奪っていく。


馬車が進むにつれて、慣れ親しんだ学園の気配は遠ざかり、代わりにひんやりとした森の匂いが鼻をついた。


(……うちは、死ぬんかな。それとも、死ぬより酷い目にあわされるんかな)


ぼんやりと、そんなことを考える。

エドウィンが言っていた「実験」。アルビノエルフの稀有な魔力を利用するという、非人道的な行い。


その果てに待っているのがどんな運命なのか、想像するだけで身の毛がよだつはずなのに、不思議と心は凪いでいた。


恐怖も、悲しみも、何も感じない。

まるで分厚い氷の膜が心を覆ってしまったかのように、全ての感情が麻痺していた。




(もう、どうでもええ……)


ミカゲの愛は、三百年前の少女への贖罪だった。

自分が彼にとって、本当にかけがえのない存在だったわけではなかった。

ただの、都合のいい「代わり」。


その事実が、まふゆの心を完全に砕いてしまった。

信じていたものが、足元から崩れ落ちる音を聞いた。大切にしていた温かい思い出が、色褪せた偽物だったと突きつけられた絶望。


もう、何も信じられない。誰も信じたくない。

それならいっそ、このまま全てが終わってしまえばいい。




「……まふゆ」


隣から、か細い声が聞こえた。

アリスが、不安げにまふゆの背中に寄りかかってくる。


「……寒い……?」

「……ううん」


アリスは小さく首を振る。


「まふゆが……どこかに行っちゃいそう……」


その声は、迷子になった子供のように心細げだった。いつもはまふゆが守ってくれた。そのまふゆが、今はまるで魂の抜けた人形のようで、アリスにはそれが何よりも怖かった。


まふゆは何も答えられなかった。

アリスを安心させる言葉も、温かい微笑みも、今の彼女には何一つ持ち合わせていない。

ただ、背中に伝わる小さな温もりだけが、自分がまだ生きていることを嫌でも実感させた。




馬車は薄暗い森の奥深くへと進んでいく。

これから自分たちがどこへ連れて行かれ、何をされるのか。


そんな未来さえ、今のまふゆにはどうでもいいことのように思えた。

ただ、揺れる馬車の中で目を閉じ、終わりのない闇に身を委ねるだけだった。




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