29-11
──魔導機が映し出した映像が、ゆっくりと薄れていく。
三百年前の悲劇。絶望に染まった少女と、彼女を守れなかった少年の、痛ましい過去。
その残酷な真実が、レオンハルトとセリウスの心に重く圧し掛かった。
「……そんな」
レオンハルトの声が、信じられないという色を滲ませながら震える。
「貴様……ミカゲの過去を、こんな形で……!」
「許せない……!」
セリウスもまた、普段の冷静さを失い、怒りに身を震わせていた。
だが、二人が感じている怒りよりも、もっと深い絶望に囚われている者がいた。
まふゆだ。
彼女は、エドウィンに腕を掴まれたまま、ただ虚ろな目で虚空を見つめていた。
唇から血の気が引き、雪のように白い肌が更に蒼白に染まる。その菫色の瞳には、もはや何の光も宿っていなかった。
(うちは……代わり……?)
脳裏に、エドウィンの言葉が何度も反芻される。
『可哀想に、まふゆ君。彼は君を愛しているんじゃない。君のその白い髪と菫色の瞳に──遠い昔に殺した、初恋の娘の姿を重ねているだけだ』
ミカゲが自分に向けていた優しさも、守ろうとしてくれた必死さも、告白してくれた言葉も、後夜祭で抱きしめてくれた温もりも。
全て、全て。
三百年前の、彼が守れなかった少女の面影を追っていただけだったのか。
「……ミカゲは」
まふゆの唇から、震える声が漏れる。
「うちやなくて、ユキさんを見ていたん……?」
その声は、絶望に染まり、今にも砕け散りそうなほど脆かった。
彼女は必死に、エドウィンの言葉が嘘であることを願っていた。
違う、そんなはずない。ミカゲは自分を見てくれていた。ユキさんの代わりじゃない、自分自身を愛してくれていたはずだ、と。
だが、その願いは、容赦なく打ち砕かれる。
「……ああ、そうだ」
エドウィンは、まるで美しい旋律を奏でるように優雅に答えた。
「君が初めて彼の前に現れた時から、彼は君にユキの影を見ていた。白い髪、菫色の瞳、アルビノエルフという希少な種族。全てが、彼の贖罪の対象に相応しかったんだよ」
「やめろ……!」
レオンハルトが咆哮する。だが、白檻会の兵たちが二人を取り囲み、動きを封じていた。
エドウィンは構わず続ける。
「彼が君を守ろうとしたのは、ユキを守れなかった自分を許せなかったから。君に優しくしたのは、ユキにしてやれなかった償いのため。そして君を愛したのは────」
エドウィンは、まふゆの耳元で囁いた。
「────ユキへの、三百年越しの贖罪だよ」
「……っ」
まふゆの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
それは音もなく、頬を伝い、床に落ちて弾ける。
(そんな……そんなの……)
心が、壊れそうだった。
自分はミカゲにとって、本当に大切な存在だったのだろうか。彼が向けてくれた全ての感情は、本当に自分に向けられたものだったのか。




