29-10
ドワーフの情報屋は、ミカゲの纏う空気が一変したことにようやく気づき、ひっと喉を引き攣らせた。
今まで感じたことのない、肌を刺すような殺気。それは、ただの依頼をこなす暗殺者のそれとは明らかに異質だった。
「ひ、ひぃ……旦那、どうしたんだよ……」
「答えろ」
ミカゲはゆっくりと顔を上げた。闇色の頭巾の奥で、彼の瞳が仄暗い光を宿している。それはまるで、地獄の底から獲物を睨む捕食者の目だった。
「その学園の場所と、アルビノエルフの名を」
ドワーフは震えながら、知っている情報を洗いざらい吐き出した。
王立特異能力者統合学園。様々な種族が共存し、能力を磨くための学び舎。
そして、今年入学するというアルビノエルフの名は────まふゆ。
(まふゆ……)
知らない名だ。だが、そんなことは関係ない。
アルビノエルフ。白檻会。
三百年の時を経て、忌まわしい因果が再び巡り始めた。
あの日の悪夢が、繰り返されようとしている。
ミカゲは無言で立ち上がると、報酬の入った封筒をカウンターに置いたまま、酒場を後にした。ドワーフは呆然とそれを見送るしかできない。
夜の冷たい風が、ミカゲの身体を通り抜けていく。
しかし、彼の内側では、凍りついていたはずのマグマが熱く煮えたぎっていた。
(今度こそ)
あの日のように、無力なまま見ているだけでは終わらない。
この三百年間、血と硝煙の中で研ぎ澄ましてきたこの力は、そのためだけにある。
(今度こそ、守る)
たとえ、その先に待つのが破滅であろうと。
たとえ、守るべき相手が、あの日の姫とは違う、見ず知らずの誰かであろうと。
「白檻会……」
ミカゲの唇から、呪詛のような呟きが漏れた。
「一匹残らず、根絶やしにしてやる」
彼の姿は、街の闇に溶けるように消えた。
行き先は一つ。
王立特異能力者統合学園。
新たな獲物と、そして、三百年前の過去との決着をつけるために。
永い時を生きてきた亡霊は、ついに己の死に場所を見つけたのかもしれなかった。
その顔に、ほんのわずかな、しかし確かな生気が宿っていることに、彼自身はまだ気づいていなかった。




