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『彼女の核となっているのは、あるアルビノエルフから抽出した純粋な魔力──』
エドウィンが口にしたその一節に、今まで静観を貫いていたミカゲの空気が、まるで空気が凍るかのように一変した。
彼の全身から放たれる殺気は、もはや怒りや敵意といった次元を超越し、ただ純粋な破壊衝動へと昇華している。
エドウィンの首筋に、冷たい汗が一筋伝った。
「……ある、アルビノエルフ……だと?」
ミカゲの唇から、地獄の底から響くような低い声が漏れる。その声には、彼の過去の闇に触れた者だけが感じ取れる、深い絶望と悔恨の色が滲んでいた。
彼の脳裏に、遠い昔の記憶が蘇る。
影人として、初めて人の命を奪う時。
雪のように白い肌と髪を持ち、自分に微笑みかけてくれた少女。彼女もまた────
そのミカゲの僅かな動揺を、エドウィンは見逃さなかった。
狂気の研究者は、獲物を見つけた蛇のように、愉快そうに目を細める。計画の最終段階を彩る、最高の余興を見つけたとでも言うように。
「おや、ミカゲ君。どうやら君は、何か心当たりがあるようだね」
エドウィンは、懐から奇妙な形状をした円盤状の魔導機を取り出した。
表面には複雑な魔術回路が刻まれており、不気味な光を明滅させている。
「君たち影人は、感情が乏しいと聞く。だが、君は違うようだ。特に、まふゆ君に対しては……並々ならぬ執着を見せている。それは本当に、君自身の感情なのかな?」
エドウィンは挑発するように笑い、その言葉の刃を、まっすぐにまふゆへと向けた。
「可哀想に、まふゆ君。彼は君を愛しているんじゃない。君のその白い髪と菫色の瞳に──遠い昔に殺した、初恋の娘の姿を重ねているだけだ」
「────ッ!?」
まふゆの心臓が、氷の杭で打ち抜かれたかのような衝撃に凍り付く。
ミカゲが、誰かを……?そして、自分に誰かを重ねている……?
そんなはずはない。昨夜、彼がくれた言葉も、温もりも、全てが本物だったはずだ。
「何を……訳の分からんことを……!」
レオンハルトが怒鳴るが、エドウィンはそれを意にも介さない。
「信じられないかい?ならば見せてあげよう。彼の記憶──その穢れた過去をね!」
エドウィンが魔導機をミカゲに向けると、装置が甲高い起動音を立てた。ミカゲが咄嗟に身構えるが、それより早く、魔導機から放たれた光が彼の頭を捉える。
「ぐっ……ぁ……!」
ミカゲの体が大きく痙攣し、苦痛に呻く。彼の脳から強制的に記憶情報が抜き取られていく。
そして、抜き取られた記憶は魔導機によって再構築され、中庭の中央、何もない空間に立体映像として投影され始めた。
そこに映し出されたのは、見たこともない森の中だった。
今よりもずっと幼い──まだ少年と呼ぶべき姿のミカゲが、一人の少女と向き合っている。
少女は白銀の髪と菫色の瞳を持ち、その姿は驚くほどまふゆに似ていた。
第二十五話・了




