25-10
エドウィンの狂的な高笑いと、「器」という冷酷な言葉。それは、アリスという存在を物としてしか見ていない、非人道的な響きを伴っていた。
まふゆの心に、これまで感じたことのないほどの怒りと疑念が燃え上がる。
「器、って……!アリスさんは、ただの器なんかやありません!それに、あの子のこの耳……どう見てもエルフ族のものです!アリスさんはエルフやないんですか!?」
まふゆは叫ぶように問い質した。アリスの少し尖った耳は、初めて出会った時からずっと、彼女がエルフ族の誰かなのだと信じて疑わなかった証だ。それを、こんな風に物扱いされることなど、断じて許せるものではない。
仲間たちも、エドウィンとアルテスを完全に包囲するようにじりじりと距離を詰める。もう後戻りはできない。
まふゆの必死の問いかけに対し、エドウィンは狂喜の表情を崩さぬまま、まるで愚かな子供に真実を教え諭すかのように、ゆっくりと首を横に振った。
「エルフ、か。ああ、その『耳』のことかい?それはただの『記号』だよ、まふゆ君。君たちのような純粋なエルフ族に近しい存在だと誤認させ、警戒心を解かせるためのね」
「き、記号……?」
「そうだとも!」
エドウィンは両手を広げ、神の如く真実を語る己に心酔しているかのように続けた。
「アリス君は、エルフではない。人間でも、獣人でも、ドワーフでもない。彼女は、我々『白檻会』の叡智の結晶!至高の魔力を受け入れるためだけに造られた、究極の魔力貯蔵媒体──『ホムンクルス』なのだから!」
ホムンクルス──人造生命体。
その言葉が雷鳴のように中庭に轟いた瞬間、時が止まったかのような静寂が訪れた。
「……ホムン、クルス……?」
セリウスが、信じられないというように呟く。古代魔術史において、その存在は理論上語られてはいたが、倫理的な問題から禁忌中の禁忌とされ、実現した例は記録にないはずだった。
レオンハルトは怒りに顔を歪め、ミカゲはついにその手を暗器の柄にかけた。
「そ、そんな……嘘や……」
まふゆはかぶりを振った。信じたくなかった。
共に過ごした時間、クエストを乗り越え、少しずつ笑顔を見せるようになったアリス。
昇級を喜び、スケッチブックをプレゼントした時の嬉しそうな顔。臨海学校で見た無邪気な姿。それら全てが、作り物の記憶だというのか。
「アリスさんは……アリスは、ちゃんと心を持ってる!笑ったり、驚いたり、喜んだりする!そんな子が、作られた命なわけ……!」
「心だと? ああ、それもプログラムされた『擬似感情』だよ。特定の刺激に対し、生物らしい反応を返すように設計されているに過ぎない」
エドウィンは、まふゆの叫びを冷酷に切り捨てる。
「彼女の核となっているのは、あるアルビノエルフから抽出した純粋な魔力。その器として、極めて不安定な状態で造られている。だからこそ、君の安定した白魔術とこれほどまでに高い親和性を示したのだ!二つの魔力が融合すれば、我々は神の領域にさえ手が届く!」
狂信者のように語るエドウィンの言葉が、まふゆの心を容赦なく抉っていく。
自分の隣にいる、小さな友人が、自分と同じ種族の誰かの犠牲の上に成り立っているというのか。
そして、自分もまた、そのための部品として狙われているというのか。




