25-8
「……分かった」
まふゆは、覚悟を決めた。
「うちが、アリスさんに力をあげる。せやから、無理はせんでええ。ちょっとだけ、やってみるだけでええからね」
アリスに向かって優しく微笑みかけると、彼女もまた、こくりと小さく頷いた。
まふゆはアリスの前にそっと膝をつき、その小さな両肩に手を置く。そして、静かに目を閉じ、聖なる祈りを紡ぎ始めた。
「──聖なる白銀の光よ、か弱きこの子に戦う力を与えたまえ」
まふゆの体から、清らかで温かい光が溢れ出す。それはまるで、春の陽光のように優しくアリスの体を包み込んだ。
まふゆのアルビノエルフとしての純粋な白魔術が、アリスの内に秘められた膨大な魔力と共鳴し、彼女の身体能力を飛躍的に高めていく。
「……すごい。力が、みなぎる……」
アリスが自身の小さな拳を見つめ、驚いたように呟いた。彼女の全身から、先程までとは比較にならないほどの気配が立ち上る。
まふゆはアリスから手を離し、立ち上がって一歩下がる。
「アリスさん、大丈夫。自分の力を信じて」
「……うん」
アリスはもう一度、力強く頷くと、アルテスの張った結界へと向き直った。その小さな体躯とは裏腹に、彼女の纏うオーラは熟練の戦士のそれにも匹敵する。
周囲の生徒たちが、息を呑んでその様子を見守っている。エドウィンとアルテスは、その光景を値踏みするように、興味深げに観察していた。
アリスは、ただまっすぐに結界を見据えると、目標に向かって駆け出した。その一歩は驚くほど速く、芝生を力強く蹴り上げる。そして、結界の目前で高く跳躍すると、強化された力を込めた右腕を、力一杯振りかぶった。
「──ていっ」
小さな体から放たれたとは思えない気合と共に、アリスの拳が光の壁に叩きつけられる。
直後、ズウゥンッ!という地響きのような衝撃音が中庭に響き渡った。
アルテスの結界が、まるで殴られた水面のように激しく波打ち、みしり、と嫌な音を立てる。
「なっ……!?」
余裕の表情を浮かべていたアルテスの顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
そして、次の瞬間──パリンッ!とガラスが砕けるような澄んだ音と共に、レオンハルトやセリウスですら傷一つつけられなかったはずの結界に、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。




