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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第二十五話 人形
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25-6




「では、早速ですが授業を始めましょう」


アルテスは柔和な笑みを崩さぬまま、芝生の中央へと歩み出た。その手にはいつの間にか、銀色に輝く一本の杖が握られている。


「本日のテーマは『対人魔術における防御結界の構築と応用』です。皆さんも知っての通り、魔術は強力な力ですが、それ故に悪用される危険性も孕んでいます。我々白檻会は、エルフ族の皆様がその力を平和のために使えるよう、日々研究を重ねています」


しれっとした口調で語られる偽りの理念に、レオンハルトの眉間に深い皺が刻まれる。

セリウスは冷静さを装いながらも、その瞳は氷のように冷え切っていた。


「まずは、私が基本的な防御結界を展開してみせます。皆さんは、その結界に自分の魔力をぶつけてみてください。どれほどの強度があるか、肌で感じてみることが最初の学びです」


アルテスが杖を軽く振るうと、彼の周囲に淡い光の半球ドームが出現した。

一見すると、ごく初歩的な結界魔術に見える。しかし、その結界から放たれる圧力は、尋常ではなかった。


「……随分と強力な結界だな」


レオンハルトが低く唸る。彼の隣で、セリウスも同意するように頷いた。


「うん。だけどどこか……魔力の流れが不自然だよ。まるで、複数の魔力を無理やり一つに編み上げたような……」




その言葉に、まふゆは息を呑んだ。


(複数の魔力を……?まさか、これって……!)


脳裏に浮かぶのは、エルフたちの命を犠牲にして作られるという「魔導機」の存在。

この結界もまた、同じ原理で作られているのではないか。そう思うと、目の前の美しい光の壁が、おぞましいものに見えてくる。


「さあ、遠慮なくどうぞ。まずはA組のリーダー、レオンハルト君からいかがかな?」


エドウィンが、楽しむようにレオンハルトを指名する。


「……分かりました」


レオンハルトは短く応じると、一歩前へ出た。彼は人間であり魔術は使えない。

しかし、彼の持つ圧倒的な身体能力から繰り出される一撃は、並の魔術を凌駕する。


「ふんっ!」


気合と共に踏み込み、腰に差していた訓練用の剣を抜き放つと、それを力任せに結界へと叩きつけた。ガギンッ!と甲高い金属音が響き渡る。


しかし、結界はびくともせず、それどころか剣を叩きつけたレオンハルトの方が、その衝撃に腕を痺れさせていた。


「くっ……!なんて硬さだ……!」


生徒たちから、驚きの声が上がる。学園でも屈指の実力者であるレオンハルトの一撃を、いとも容易く弾き返したのだから。




「ふふ、素晴らしい気迫ですね。ですが、力だけでは魔術の壁は破れませんよ」


アルテスが余裕の笑みで言う。


「次は……そうだな。ハーフエルフのセリウス君、君の魔術を見せてくれるかな?」


次に指名されたセリウスは、静かに前に出ると、詠唱を開始する。彼の周囲に光の粒子が集まり、鋭い矢の形を成していく。


「光よ、彼の者を穿て!──ライトアロー!」


放たれた光の矢が、結界に突き刺さる。

しかし、バチバチと激しい火花を散らしただけで、結界に亀裂一つ入れることはできなかった。


「……これも、ダメか」


セリウスが悔しそうに呟く。




アルテスは満足げに頷くと、その視線をゆっくりとまふゆに向けた。


「では、最後に──アルビノエルフのまふゆ君。君の白魔術を見せてもらおうか」


名指しされた瞬間、まふゆの心臓がどきりと跳ねた。やはり、自分たちが狙いだったのだ。

背後から、ミカゲの纏う空気がさらに冷たく、鋭利になったのを感じる。彼の無言の圧力が、「行くな」と告げていた。


「……先生」


まふゆは震える声を抑え、毅然としてアルテスを見据えた。


「……うちの魔術は、攻撃のためのもんやありません。誰かを傷つけるようには、できてへんのです」


それは、アルビノエルフとしての誇りを込めた、精一杯の抵抗だった。

しかし、アルテスはまるでその答えを予測していたかのように、にこりと笑う。


「ええ、存じていますよ。アルビノエルフの慈愛の心は、我々も尊敬しています。ですがね、まふゆ君。この授業は『防御学』です。君が結界を『攻撃』するのではなく、君の隣にいる……そう、アリス君。彼女に、この結界は破れるかな?」




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