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学園祭とその翌日の甘い休息が明け、学園は再び普段の喧騒を取り戻した。
昨夜、幸せな余韻の中で眠りについたまふゆは、小鳥のさえずりと窓から差し込む朝日に起こされ、ゆっくりと目を開けた。
隣のベッドでは、アリスがまだすーすーと穏やかな寝息を立てている。その無垢な寝顔を見ていると、自然と頬が緩んだ。
(……今日から、また授業やな)
体を起こすと、ふと、昨夜のミカゲとの出来事が鮮やかに蘇る。
(うぅ……!ミカゲと、学校で会ったら、どんな顔したらええんやろ……!)
恋人同士になったという事実は、まふゆの心に砂糖菓子のような甘さと、今までにない種類の緊張感をもたらしていた。
心臓がトクン、と期待に跳ねる。顔に集まる熱を隠すように、まふゆは慌ててベッドから降りた。
身支度を整え、アリスを起こして二人で教室へ向かう。
廊下ですれ違う生徒たちの会話は、まだ学園祭の話題で持ちきりだった。
特にA組の『白雪姫』は、予期せぬアクシデントとそれを乗り越えた圧巻のパフォーマンスで、伝説の劇として語り草になっているようだった。
「おはよう、まふゆ、アリス」
「おはよう、レオンハルト!セリウスも」
教室に入ると、すでにレオンハルトとセリウスが席に着いていた。
「ああ、おはよう。昨日はゆっくり休めたか?」
レオンハルトの声と、セリウスの穏やかな微笑みはいつも通りで、まふゆは少しだけ安堵する。
「うん、おかげさまで。二人も」
「ああ。だが、体が少しなまっているな」
他愛ない会話を交わし、まふゆが自分の席に座った、その時だった。
「……おはよう、まふゆ」
すぐ後ろから、静かで落ち着いた声がかかる。びくり、とまふゆの肩が大きく跳ねた。心臓が喉までせり上がってくるかのような感覚に襲われる。
「お、お、おはよう……ミカゲ……!」
ぎこちなく振り返ると、そこにはいつもと変わらない表情のミカゲが座っていた。
しかし、その黒曜石の瞳は、いつもより少しだけ優しく、そして深く、まふゆを見つめているように感じられる。
その視線に耐えきれず、まふゆは慌てて前を向いてしまった。
(あかん、全然いつも通りにできひん……!)
そんなまふゆの葛藤を知ってか知らずか、教室の扉が開き、担任のエドウィンがにこやかな笑みを浮かべて入ってきた。
「おはよう、諸君。学園祭、お疲れ様。特にA組の劇は素晴らしかったと、学園長も褒めておられたよ」
穏やかな労いの言葉に、クラスのあちこちから安堵の声が漏れる。
しかし、その緑色の瞳の奥に宿る冷たい光に、誰も気づいてはいなかった。
「さて、祭りの余韻に浸るのもいいが、今日からまた気持ちを切り替えていこう。今日は特別講師を招いて、実践的な魔術防御学の授業を行う。皆、中庭に移動してくれたまえ」
エドウィンの言葉に、生徒たちは「特別講師?」と顔を見合わせながらも、席を立ち始める。




