25-1
学園祭の熱狂と興奮が過ぎ去った翌日。
学園は祭りの後の静けさに包まれ、生徒たちには特別な休日が与えられていた。
まふゆは、自室のベッドの上で膝を抱え、窓から差し込む穏やかな秋の陽光をぼんやりと眺めていた。
しかし、その瞳に映っているのは外の景色ではない。
(ミカゲと……踊って、告白されて……キスも、されて……)
昨夜の出来事が、まるで夢のワンシーンのように何度も頭の中で再生される。
ジンクスの曲の美しい旋律。ダンスホールを照らす幻想的なランタンの光。大勢の生徒たちの視線。
そして、目の前で片膝をつき、静かに、けれど熱のこもった瞳で自分を見つめていたミカゲの姿。
『──俺の光になってくれ、まふゆ』
彼の声が、腕に抱かれた時の温もりが、唇に触れた感触が、あまりにも鮮明に蘇り、まふゆの心臓はきゅっと甘い音を立てた。
そのたびに、ぶわっと顔に熱が集まる。
(うぅ……思い出すだけで、顔が熱い……)
まふゆは両手でぱたぱたと顔を扇ぐ。
付き合うことになった、という実感はまだあまりない。けれど、胸いっぱいに広がるこの温かくて、少しだけくすぐったい気持ちは、紛れもなく本物だった。
ぽーっと宙を見つめ、幸せなため息をついていた、その時。
ツン、ツン。
不意に、控えめな感触が腕を刺激した。
はっと我に返ると、いつの間にかベッドの傍らにアリスが立っており、小さな人差し指でまふゆの腕をつついていた。
「ん……?アリスさん、どうしたん?」
「……まふゆ、へん」
アリスはこてん、と首を傾げる。感情の読みにくい無垢な瞳が、じっとまふゆの顔を覗き込んでいた。
「へんって……そ、そうかな?」
図星を突かれて、まふゆは思わずどもってしまう。
「うん。顔、赤い。熱、ある?」
そう言って、アリスはぺた、と自分の小さな手のひらをまふゆのおでこに当ててきた。
ひんやりとした感触が心地良い。
「熱は、ない。……でも、まふゆ、さっきから、ずっと笑ってる」
「えっ、うち、笑ってた!?」
無自覚だった。アリスに指摘されて初めて、自分の口角が緩みっぱなしだったことに気づく。
「……何か、いいことあった?」
アリスが問いかける。その純粋な好奇心に満ちた眼差しに、まふゆは「うっ」と一瞬言葉に詰まった。
(い、いいこと……っていうか、もう、すっごいことなんやけど……!こ、これをアリスさんにどう説明したら……!)
ミカゲと恋人になったこと。それをこの小さな同居人にどう伝えればいいのか。
まふゆは一人、嬉しい悩みで頭を抱えるのだった。




