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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第二十四話 白雪姫大パニック
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24-11




ミカゲに導かれるまま、まふゆは夢中でステップを踏んだ。ワルツの優雅な旋律が、まるで二人だけのために奏でられているかのように夜空に響き渡る。


彼のリードは驚くほど滑らかで、寸分の乱れもない。それは暗殺者としての彼の動きにも通じる、無駄のない洗練されたものだった。


まふゆの腰に添えられた手は力強く、けれど決して乱暴ではなく、握られた手からは彼の確かな体温が伝わってくる。

すぐ目の前にある彼の胸元からは、夜の闇にも似た静かで落ち着く香りがした。


(ミカゲと……踊ってる……)


その事実だけで、頭がくらくらする。

周りの景色が溶けて、世界に彼と自分しかいないような不思議な感覚に陥った。


ジンクスの曲、たくさんの視線、劇の最後のキス。全てが混ざり合って、まふゆの胸を甘く締め付ける。




ミカゲとまふゆが踊り始めたのをきっかけに、それまで様子を窺っていた他の生徒たちも、堰を切ったように動き出した。


「おい、見てるだけじゃ勿体無いだろ! 俺と踊れ!」

「えっ、わ、私なんかでいいの……?」

「今を逃したら、きっと後悔するから!」


あちこちで、勇気を振り絞った男子生徒が意中の相手に手を差し伸べ、はにかみながらもその手を取る女子生徒たちの姿が見られた。

先程まで静観していたダンスホールは、瞬く間に華やかな輪で埋め尽くされていく。


「……たく、王子様に全部持ってかれちまったな」


レオンハルトは苦笑いを浮かべ、腕を組んだ。その横で、セリウスもまた、静かに二人を見つめている。


「レオンハルト様……!」


そんなレオンハルトの前に、リリアが意を決したように立った。


「あーしと……踊って、くれませんか?」


その瞳は真剣そのもので、レオンハルトは一瞬驚いた顔をしたが、やがて王子らしい優雅な笑みを浮かべた。


「ああ、喜んで。お姫様」


レオンハルトがリリアの手を取りエスコートすると、彼女は夢が叶ったかのように顔を輝かせた。


「……フン。しょうがないから、ノセ、あんたがあたしの相手をしなさいよ」


シャノンはそっぽを向きながら、セリウスの袖をツンツンとつつく。


「……僕でいいのかい?」

「他に誰がいるってのよ!」

「ふふ、光栄だね」


セリウスは優しく微笑み、シャノンの小さな手を取った。


アリスは、少し離れた場所からその光景を不思議そうに眺めていた。まふゆとミカゲがくるくると回り、他の皆も楽しそうに踊っている。


その「楽しい」という感情が、アリスにはまだよくわからない。

けれど、まふゆがミカゲの腕の中で見せた、戸惑いながらも嬉しそうな笑顔は、アリスの記憶に強く焼き付いた。




曲が、クライマックスへと向かっていく。

ミカゲはふっと動きを止め、まふゆを優しく見下ろした。


「まふゆ」

「……はい」


彼の瞳が、まっすぐにまふゆを射抜く。


「俺は、王子じゃない。王族でも、勇者でもない。ただの影だ」


彼の言葉は、オーディションの時と同じ。けれど、その響きは全く違って聞こえた。


「だが、あんたが光なら、俺はどこまでも付き従う影になる。あんたを傷つける全てのものから守る、夜の闇になる」




「……俺の光になってくれ、まふゆ」




それは、後夜祭の喧騒も、美しい音楽も全てを消し去るほどの、魂からの告白だった。

まふゆの瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちる。


「……うちで、ええの……?」

「あんたがいい」

「うちは、アルビノエルフで……いつか、誰かに狙われるかもしれへん。ミカゲにも、迷惑かけるかもしれんのに……」

「迷惑じゃない。それが、俺の生きる意味になる」


彼の言葉が、不安で揺れていたまふゆの心を、温かい光で満たしていく。


「……うん」


涙で濡れた声で、それでもはっきりと、まふゆは頷いた。




その瞬間、まふゆの世界から全ての音が消えた。

ただ、目の前のミカゲの瞳だけが、夜空のどの星よりも強く輝いて見える。


彼の言葉一つ一つが、アルビノエルフであるという逃れられない宿命への不安や、異世界に来てからの孤独感を、温かい光で優しく溶かしていく。


「俺は、あんただけの影になる」


ミカゲはまふゆの返事を聞くと、その表情をわずかに和らげ、重ねたままの手にそっと力を込めた。

そして、ゆっくりと立ち上がり、まふゆの涙で濡れた頬に、ためらいがちに指先で触れる。その不器用な優しさが、たまらなく愛おしかった。


「……泣くな。あんたには、笑顔の方が似合う」

「……っ、ミカゲの、せいやんか……!」

「あんたの涙は、俺には毒より効くんだ」

「もうっ、前にもそれ言うたやん……」


まふゆは涙と笑顔が混じった顔で、彼の胸にこつんと額を寄せた。

ミカゲは一瞬驚いたように体を強張らせたが、やがて、壊れ物を抱きしめるかのように、そっとまふゆの背中に腕を回した。彼の腕の中は、不思議な安心感に満ちていた。




ちょうどその時、ジンクスの曲が最後の美しい一節を奏で終え、夜空に打ち上げられた魔法の花火が、二人の頭上で大輪の花を咲かせた。


色とりどりの光が降り注ぎ、祝福するかのようにまふゆたちを照らし出す。

周囲からは、わあっという歓声と、温かい拍手が沸き起こった。


その様子を、レオンハルトは少しだけ寂しそうに、けれど最後には晴れやかな笑顔で見守っていた。リリアと踊りながらも、彼の視線は友の幸せを祝福していた。


セリウスもまた、シャノンの手を取りながら、穏やかな微笑みを浮かべていた。胸に去来する一抹の痛みすら、今は二人の未来への祈りに変えて。




こうして、王立特異能力者統合学園の学園祭は、たくさんの想いと一つの恋の成就と共に、静かに幕を下ろした。


まふゆとミカゲ。

光と影。

二つの魂は、この運命の夜、確かに結ばれた。


これから先、どんな困難が待ち受けていようとも、この手を離さない。

まふゆはミカゲの腕の中で、強く、そう誓うのだった。




第二十四話・了




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