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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第二十四話 白雪姫大パニック
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24-10




差し出されたイチゴを、まふゆは反射的にぱくりと口に含んだ。

甘酸っぱい果汁がじゅわっと広がり、先程食べたタルトとは違う、もっと鮮烈な味がする。


ミカゲの黒曜石の瞳が、ランタンの光を受けてきらめいている。

その瞳に自分が映っていることに気づき、まふゆは心臓が大きく跳ねるのを感じた。


「……っ、な、なんで……食べさせるんよ……!」

「あんたが自分で食いそうになかったからだ」


ミカゲはこともなげに言うと、まふゆの手からフォークと皿を静かに取り上げ、隣に置いた。彼の指先が、ほんの一瞬、まふゆの指に触れる。そのわずかな接触にすら、体がびくりと反応してしまった。


(あかん、ほんまにあかん……!心臓がもたへん……!)


顔が熱い。きっと耳まで真っ赤になっているだろう。後夜祭のロマンチックな雰囲気と、彼の真っ直ぐな言葉と行動が、まふゆの思考を完全に麻痺させていた。




──その時だった。


それまで流れていた優雅なワルツのメロディがふっと止み、辺りが一瞬の静寂に包まれる。

そして、全く新しい、澄み渡る夜空の星々がそのまま音になったかのような、神秘的で美しい旋律が流れ始めた。


リリアが話していた、ジンクスの曲。


その曲が始まった瞬間、会場の誰もが動きを止め、息をのんだ。

誰もが、この曲が持つ特別な意味を知っている。談笑していた者も、踊っていた者も、皆が固唾をのんで、誰が最初に動くのかを見守っていた。


まふゆの心臓が、破裂しそうなほど激しく鳴り響く。


隣に座るミカゲが、すっと立ち上がった。そして、噴水の縁に座ったままのまふゆの前に立つと、影のように深く、静かに、片膝をついた。


それは、王子役のオーディションの時と、劇のラストシーンで見た光景。




「まふゆ」


彼の声が、音楽と喧騒の中ではっきりと聞こえる。

彼はゆっくりと手を差し出した。まるで、お姫様にダンスを申し込む王子様のように。


「……俺と、踊れ」


それは命令でも、懇願でもない。

ただ、揺るぎない事実を告げるかのような、静かで、しかし確信に満ちた声だった。


周囲の視線が、痛いほど突き刺さる。

レオンハルトやセリウスの姿も、視界の端に映った気がした。




けれど、今のまふゆには、目の前でひざまずく彼の姿しか見えなかった。


差し出された、大きな手。

自分だけを映す、黒曜石の瞳。


まふゆは、吸い寄せられるように、そっと自分の手を彼の手に重ねた。


「……うん」


ミカゲの手に引かれ、ゆっくりと立ち上がる。二人はダンスホールの中心へと歩みを進めた。周囲の生徒たちが、モーゼの海割りのように道を開けていく。


ミカゲの片手がまふゆの腰に添えられ、もう片方の手が固く握られる。ジンクスの曲が、二人を祝福するように流れる中、彼らは静かに、最初のステップを踏み出した。

それは、一つの物語が終わり、新たな物語が始まる、運命のダンスだった。




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