表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第二十四話 白雪姫大パニック
297/424

24-9




「わっ、ちょっと、ミカゲ!いきなり引っ張らんといて!」


まふゆは戸惑いの声を上げながらも、ミカゲの力強い引力に逆らえず、テーブルへと導かれる。


その手は大きく、少しだけひんやりとしていて、劇の最後に触れた唇の感触を嫌でも思い出させてしまい、まふゆの頬に再び熱が集まった。


「……暴れるな。腹が減っては戦はできん、と言うだろう」

「今は戦やないし!ていうか、さっきから近いんやけど……!」


周囲の楽しげな喧騒とは裏腹に、二人の間にはどこか張り詰めた空気が流れる。

ミカゲはまふゆの抗議を意に介さず、テーブルに並んだ色とりどりの料理の中から、ローストビーフやフルーツが乗ったタルトなどを手際よく皿に取っていく。


「ほら、食え。あんたは燃費が悪い」

「誰が燃費悪いんよ!……でも、おおきに」


不器用な優しさに、まふゆは少しだけ毒気を抜かれてしまう。

差し出された皿を受け取り、小さなフォークでタルトを口に運んだ。甘酸っぱいクリームが口の中に広がり、緊張でこわばっていた心が少しだけほぐれていく。




その様子を、レオンハルトとセリウスは少し離れた場所から見ていた。


「……ちっ。抜け駆けしやがって、あの影野郎」


レオンハルトが面白くなさそうに舌打ちする。その隣で、セリウスは静かに、しかしどこか憂いを帯びた瞳で二人を見つめていた。


「劇の功労者だからね。今夜の彼は、まさしく『王子様』だ」


その言葉には、羨望と、ほんの少しの諦めが滲んでいた。


「あーもう!レオンハルト様もセリウス様も、見てるだけじゃ始まらないっしょ!ほら、あーしたちも何か食べよ!」

「そうよ、あんなヤツらのことなんか放っておきなさい。あたしはあっちの肉が食べたいわ」


リリアが二人の腕をぐいぐいと引っ張り、場の空気を変えようとする。

シャノンも続き、二人は半ば強引に輪から連れ出された。




まふゆとミカゲは、少しだけ喧騒から離れた噴水の縁に腰を下ろしていた。

隣に座るミカゲは何も言わず、ただ静かに夜空を眺めている。気まずい沈黙が流れる。


(……聞かな、あかん。さっきのこと)


まふゆは意を決して、口を開いた。


「……あの、ね。ミカゲ」

「なんだ」

「劇の最後……その、キスやけど……あれ、振りだけの予定やったやん。なんで、ほんまにしたん……?」


勇気を振り絞った問いかけに、ミカゲはゆっくりと視線をまふゆへと移す。

魔法のランタンの光が、彼の整った横顔を幻想的に照らしていた。




「……王子が、愛する姫にキスをするのに理由がいるのか」

「えっ……?」

「あれは劇だったが、俺の気持ちは本物だ。……あんたが白雪姫で、俺が王子だった。それだけだ」


あまりに真っ直ぐな言葉に、まふゆは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受ける。これは劇の役柄としての言葉なのか、それとも──。


混乱するまふゆの手から、彼がおもむろにフォークを取り、皿に乗っていた最後のイチゴを刺した。そして、それを自分の口に運ぶのではなく、まふゆの唇へと、そっと差し出す。


「……食え。顔が赤いぞ」


その仕草は、まるで劇の続きのようで。まふゆは、彼の黒曜石の瞳から目が離せなくなっていた。


後夜祭の夜は、まだ始まったばかり。ジンクスの曲が流れる、その時まで。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ