24-9
「わっ、ちょっと、ミカゲ!いきなり引っ張らんといて!」
まふゆは戸惑いの声を上げながらも、ミカゲの力強い引力に逆らえず、テーブルへと導かれる。
その手は大きく、少しだけひんやりとしていて、劇の最後に触れた唇の感触を嫌でも思い出させてしまい、まふゆの頬に再び熱が集まった。
「……暴れるな。腹が減っては戦はできん、と言うだろう」
「今は戦やないし!ていうか、さっきから近いんやけど……!」
周囲の楽しげな喧騒とは裏腹に、二人の間にはどこか張り詰めた空気が流れる。
ミカゲはまふゆの抗議を意に介さず、テーブルに並んだ色とりどりの料理の中から、ローストビーフやフルーツが乗ったタルトなどを手際よく皿に取っていく。
「ほら、食え。あんたは燃費が悪い」
「誰が燃費悪いんよ!……でも、おおきに」
不器用な優しさに、まふゆは少しだけ毒気を抜かれてしまう。
差し出された皿を受け取り、小さなフォークでタルトを口に運んだ。甘酸っぱいクリームが口の中に広がり、緊張でこわばっていた心が少しだけほぐれていく。
その様子を、レオンハルトとセリウスは少し離れた場所から見ていた。
「……ちっ。抜け駆けしやがって、あの影野郎」
レオンハルトが面白くなさそうに舌打ちする。その隣で、セリウスは静かに、しかしどこか憂いを帯びた瞳で二人を見つめていた。
「劇の功労者だからね。今夜の彼は、まさしく『王子様』だ」
その言葉には、羨望と、ほんの少しの諦めが滲んでいた。
「あーもう!レオンハルト様もセリウス様も、見てるだけじゃ始まらないっしょ!ほら、あーしたちも何か食べよ!」
「そうよ、あんなヤツらのことなんか放っておきなさい。あたしはあっちの肉が食べたいわ」
リリアが二人の腕をぐいぐいと引っ張り、場の空気を変えようとする。
シャノンも続き、二人は半ば強引に輪から連れ出された。
まふゆとミカゲは、少しだけ喧騒から離れた噴水の縁に腰を下ろしていた。
隣に座るミカゲは何も言わず、ただ静かに夜空を眺めている。気まずい沈黙が流れる。
(……聞かな、あかん。さっきのこと)
まふゆは意を決して、口を開いた。
「……あの、ね。ミカゲ」
「なんだ」
「劇の最後……その、キスやけど……あれ、振りだけの予定やったやん。なんで、ほんまにしたん……?」
勇気を振り絞った問いかけに、ミカゲはゆっくりと視線をまふゆへと移す。
魔法のランタンの光が、彼の整った横顔を幻想的に照らしていた。
「……王子が、愛する姫にキスをするのに理由がいるのか」
「えっ……?」
「あれは劇だったが、俺の気持ちは本物だ。……あんたが白雪姫で、俺が王子だった。それだけだ」
あまりに真っ直ぐな言葉に、まふゆは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受ける。これは劇の役柄としての言葉なのか、それとも──。
混乱するまふゆの手から、彼がおもむろにフォークを取り、皿に乗っていた最後のイチゴを刺した。そして、それを自分の口に運ぶのではなく、まふゆの唇へと、そっと差し出す。
「……食え。顔が赤いぞ」
その仕草は、まるで劇の続きのようで。まふゆは、彼の黒曜石の瞳から目が離せなくなっていた。
後夜祭の夜は、まだ始まったばかり。ジンクスの曲が流れる、その時まで。




