表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック ブック  作者: さだきち
因果の真の終着:新たなる旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/97

第二章:天空の咆哮、あるいは鋼の救済


静寂の里にカイエンとマルコが身を寄せてから、数か月の月日が流れていた。修行の熱気に包まれるこの里に、ある日、珍しい客人が姿を現した。


「ふう……カイエンに貰った地図を頼りに来たが、とんでもない難所だな、ここは」

額の汗を拭いながら、旅装束のバレルが息をつく。里の主となったソウケンが、慇懃な態度で彼を出迎えた。

「これはこれは。遠路はるばる、さぞ大変だったでしょう。さあ、どうぞこちらへ……」

ソウケンの案内で、バレルは奥の客間へと通されていった。


その頃、里の端に位置する切り立った崖の上では、一人の男が風を切っていた。

マルコが鋭い気合と共に土を蹴り、対岸の崖へ向かって渾身のジャンプを放つ。指先が岩肌を捉え、間一髪で這い上がった彼は、荒い息を整えながら空を仰いだ。

「……おーい! マルコさーん! ソウケン様がお呼びですよ!」

下から響く若い弟子の声に、マルコは苦笑いする。

「ひえー! 飛ぶ前に言ってくれよぉ……って、仕方ないか」

彼は再び助走をつけると、今度は迷いのない大ジャンプで戻っていった。


ソウケンの部屋の扉がノックされる。

「入りたまえ」

「失礼します」

顔を出したマルコは、そこに座る人物を見て目を見開いた。

「バレルさん!?」

「よお、マルコ。久しぶりだな。今日は、お前を呼びに来たんだ」

「え? 僕をですか?」

バレルは不敵な笑みを浮かべ、力強く頷いた。

「そうだ。お前がいないと始まらないからな。……お前の村を、救いに行くんだ」


「え!? あの村を? どうやって……」

「説明は後だ。とりあえず、支度をしてくれ」

「あ、はい! 今すぐ!」

マルコは混乱しながらも、弾かれたように自室へ戻り、大慌てで旅の支度を整えた。


険しい山道を抜け、辿り着いた港には、あの見覚えのある流線形の帆船が停泊していた。

「いやー、この船、懐かしいですね」

「やあ、マルコさん。元気そうで何よりだ」

甲板から気さくに声をかけてきたのは、兵士バルドだった。

「え? 皆さんもいらっしゃったのですか!?」

「あら、私もいるわよ。お久しぶりね、マルコ」

イゾルデが、相変わらずの美しい微笑を浮かべて立っていた。ゴドリックもまた、豪快な笑みで彼を歓迎する。


やがて船は静かに港を離れ、沖へと進んでいった。

「よし! そろそろ……飛ぶぞ!」

バレルの伝令が船内に響き渡る。

「またまた……いくらこの船でも、『飛ぶ』なんて大袈裟だなぁ」

マルコが冗談だと思って笑う。しかし、その様子を見るイゾルデやバルド、ゴドリックの顔には、隠しきれないニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。


その時、船体が異音を立てて変形を始めた。

自動的に帆が巻き取られて畳まれ、メインポールが格納される。代わりに、船体の左右から新たな支柱がせり出してきた。先端からは鋭い羽が飛び出し、パカっと分かれると、そこにはヘリコプターのようなプロペラが八つ、その姿を現した。


「なんだ? なんだなんだ!?」

マルコがキョロキョロと辺りを見回し、困惑の声を上げる。

次の瞬間、プロペラが高速で旋回を始め、猛烈な風が吹き荒れた。船体は海水を滴らせながら、重力に逆らうようにゆっくりと宙へ浮き上がっていったのだ。


船は、その美しい流線形の本当の意味を証明するかのように、空を切り、風に乗った。

「す……すげえっ!!」

流れる雲の合間から、猛スピードで後ろへ過ぎ去っていく大地を眺め、マルコは子供のように目を輝かせた。


数時間の飛行の後、前方に巨大な山影が見えてきた。

「あ! あれは……!」

「どう? 久しぶりの故郷は。あそこなんでしょ?」

イゾルデが隣に立ち、優しく声をかける。

マルコは何も答えなかった。ただ、刻一刻と近づいてくるその山を見つめていた。


故郷の村を「破戒僧」として追放されてから、数年。

後悔、そして希望……様々な思いが、空を飛ぶ船の上で彼の胸に去来していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ