第四章:白亜の轍と新生の志願
魔法教会本部へと続く街道を、鮮やかな赤塗りの馬車と、毛並みの整った白馬が進んでいく。手綱を引くのは、かつてイゾルデと共に戦場を駆けた二人の屈強な兵士だ。
「しっかし……いつもこんなに物々しいのか?」
バレルが慣れない貴賓のような雰囲気にそわそわと肩をすくめた。
「ふふふ……羨ましいかしら?」
馬車からイゾルデが、悪戯っぽくも美しい微笑を浮かべる。
「……羨ましくねえよ」
バレルは吐き捨てるように言った。
やがて、緑の丘の向こうに、魔法教会の先進的で威容を誇る白亜の建物が見えてきた。そのあまりの巨大さに、エルムが目を輝かせる。
「初めて見るのか?」
バルドが優しく声をかけると、エルムは素直に頷いた。
「うん。なんだか、すごいところに来ちゃったね」
「わっはっは! エルム君の反応はいいなあ。一緒にいると、こっちまで心が弾むよ」
ゴドリックも豪快に笑い、一行の緊張を解きほぐした。
本部のロビーに到着すると、そこには執行官オズワルドが自ら出迎えていた。
「執行官直々のお出迎えとは……俺たちはVIP待遇か?」
バレルの軽口に、オズワルドは苦笑いを浮かべて応じる。
「お前な……本来はまだ拘束中の身なんだぞ。……あとの連中はどうした?」
「ああ、これ。預かってきたわ」
バレルがカイエンから託された「討伐隊の紋章」を差し出した。
「カイエンの野郎だ。ひとまず辞めるってよ。……あいつはあいつの道があるんだとさ」
「……そうか。預かっておく。ちょっとここで待っていろ」
しばらくして戻ってきたオズワルドに案内され、一行は奥の重厚な会議室へと通された。
そこで語られたのは、あまりにも壮絶な真実の数々だった。
呪われた魔剣の正体。呪いが解け、一つの体に共存することになったアルドの魂。シファが聖輝軍としてドラゴンの里で修行に励んでいること。そして、奪われた『生命のしずく』によって復活した最悪の魔術師ヴァルガスを、自分たちが討ち果たしたこと——。
報告は数時間に及んだが、やがてすべての聴取が終わり、一行は解放された。
部屋を出ようとした時、オズワルドが低く声をかけた。
「おい、バレル……」
「なんだ?」
「……工房に戻っていいそうだ」
オズワルドがバレルの肩をポンと叩く。
「上層部を説得するのに骨が折れたんだぞ。これからは、少しは『いい子』にしてろよ」
「……ああ。恩に着るよ、オズワルド」
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その後、エルムは一人、正門の脇にある「黒本討伐隊」の建物へと足を踏み入れた。
『わあ……変わってないなあ……』
脳裏に、かつてここを拠点にしていたアルドの懐かしそうな声が響く。
掲示板を眺めていたエルムは、ふと足を止め、受付の女性に声をかけた。
「あの……まだ募集はしているんですか?黒本の脅威はまだ無くなっていないんですか?」
「そうですね……残念ながら。撒き散らされた黒本の魔力は今なお増殖し、各地で被害が続いている状況なんです」
エルムは黙り込んだ。
(どうする、アルド?)
『え? 何がだ?』
(僕は気になるんだ。元凶を倒したのに、どうして黒本が生き続けているのか……。このまま放っておけないよ)
『……ヴァルガスが倒されたばかりだ。少しずつ消えていくんじゃないか?』
(ならいいんだけど……。でも、僕は決めたよ)
エルムは決然と顔を上げ、受付に志願票を求めた。
「僕……討伐隊に志願します」
『な、なにぃ!?』
脳内のアルドが素っ頓狂な声を上げる。
(ごめん、アルド……。実際に戦うのは、きっと君たちの力だけど)
『……別に構わないさ。お前の体だ、お前がやりたいようにやればいい。……でも、本当にいいのか? エルム』
(うん。これが僕の見つけた、僕の役割だと思うんだ)
建物の外に出ると、そこにはそれぞれの旅立ちを控えた仲間たちが待っていた。
「イゾルデ……ここに残るのか?」
「そうね。ここは設備も整っているし、しばらくは戦後の報告書をまとめながらゆっくりするわ。……バレル、あなたは?」
「俺は工房だ。例の『飛空艇』の研究もしなきゃならんしな。あそこなら機材も揃ってる」
「……じゃあ、僕は行くよ」
エルムが剣を背負い直し、陽光に反射して銀の鎖帷子が光輝く。その足取りは驚くほど颯爽としていた。
「エルム! 頑張れよ! 困ったらいつでも呼べよな!」
バルドとゴドリックが大きく手を振る。
エルムもまた、満面の笑みでそれに応え、力強く手を振り返した。
それぞれの胸に秘めた新しい志。
始まりの場所で分かたれた道は、いま再び、未知なる未来へと力強く伸びていった。




