表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック ブック  作者: さだきち
因果の終着:最後の決着と新しい夜明け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/97

第三章:分水嶺の港、約束の祭壇


やがて、美しい流線形の帆船は再びトルニアの港へと滑り込み、静かにその錨を下ろした。

活気を取り戻した港では、バレルの野太い指示の下、次なる航海に向けた物資が次々と運び込まれていく。


「この船は、このまま魔法教会本部へ向かうわ」

イゾルデが、甲板で風に吹かれながら告げた。彼女と二人の兵士、そしてエルムは、戦いの報告と戦後処理のために教会へ。カイエン、サヤ、マルコの三人は、ここで船を降り、恩師の待つ静寂の里へと向かう。

固い絆で結ばれた一行は、ここで二手に分かれることになった。


「エルム……ここでお別れだね」

サヤが、寂しさを隠しきれない様子で言った。

「そうだね……。でも、また会えるよ、きっと」

エルムは込み上げる感情を振り払うように、気丈な微笑みを浮かべた。


「……いろいろあったね」

「そうだね」

「エルムに最初にもらったパン、すごく美味しかったよ」

「あんなこと、まだ覚えているの? パンならいつでもあげるよ」

冗談めかして笑うエルムだったが、その言葉が終わる前に、サヤがたまらず彼を抱きしめた。

「あんなことだなんて……私にとっては、何物にも代えがたい大事な思い出よ……」

エルムもまた、彼女の背中に手を回し、その温もりを確かめるように強く抱きしめ返した。


二人の周りだけ、永遠の時間が流れているかのようだった。

しかし、無情にも出発の時が来る。


「サヤ、元気でね!!」

ゆっくりと港を離れていく船の上から、エルムはちぎれるほどに手を振り続けた。サヤもまた、エルムの姿が見えなくなり、その声が潮騒に消えてしまうまで、ずっと港に立ち尽くしていた。


「……つらいかい?」

隣で静かに見守っていたマルコが、そっと声をかける。

「つらくないって言ったら嘘になるけれど。……でも、これはお互いにとっての、新しい一歩なのよね」

サヤは涙を拭い、前を向いた。

「ああ、そうだ。約束を果たしに行こう。静寂の里へ」


「マルコも……一緒に行ってくれるの?」

「何言ってるんだ、約束だろ? 最後まで見届けるさ」

「ふふ、そうね……ありがとう」

サヤの顔に、いつもの穏やかな微笑みが戻った。


「じゃあ……お願いしていいか、サヤ」

カイエンの言葉にサヤが深く頷き、その刀が空間を鮮やかに切り裂いた。開かれた裂け目の先には、懐かしい静寂の里の風景が広がっていた。


---


里の奥深く、亡き師リクセンが祀られている祭壇の前に、カイエンとサヤが立った。

「師匠……ただいま戻りました。最後まで、俺たちを助けていただき……本当に、ありがとうございました」

カイエンは長年愛用した『レプリカ』を祭壇に供え、深々と一礼した。


「師匠……勝手に刀を持ち出して、ごめんなさい。……本当に、ありがとうございました」

サヤもまた、自らの魂とも言える『キリコ』を祭壇に並べ、静かに頭を垂れた。


「サヤ……ありがとう。私との約束、ちゃんと守ってくれたのね」

背後から、コトネが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「そんな……お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう、コトネ」


「ふふふ……カイエン、戻って来たのか。どうだ、久しぶりの里の空気は?」

現れたのは、かつての仲間ソウケンだった。

「よう、ソウケン。お前、ここの主を継いだんだって?」

「ああ、いろいろとな。……後で俺の部屋に来いよ。積もる話をしよう」

「ああ、わかった」


カイエンは去りゆくソウケンの背を見送った後、再び祭壇へと視線を戻した。

風に揺れる木々の音だけが響く静寂の中。

彼は再度、心からの感謝を込め、静かに、そして長く黙祷を捧げるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ