第二章:深紅の玉座と絶望の閃光
正門前の広場を焼き尽くしたハイエイシェント、そして守護隊長ガルディスの撃破。
圧倒的な軍事力を誇ったアステリア王城も、今やその兵のほとんどを失い、静まり返った回廊には死の香りが漂っていた。
エルムが風のような速さで駆け抜ける。すれ違いざまに二体の魔物の胴が分断され、さらにもう一体の首が宙を舞う。
サヤの刀が、木の葉を散らすかのような鮮やかさで魔物の腕を切り飛ばし、返す刃で急所を貫く。
そして、残る最後の一体を、カイエンの剛剣が真っ向から両断した。
「……着いたぞ」
静寂が戻った通路の角を曲がった先、重厚な扉の向こうに、広大な「玉座の間」が広がっていた。
カイエン、サヤ、エルムの三人がゆっくりと絨毯を踏みしめて進む。少し遅れて、息を切らしたマルコが合流した。
玉座には、豪奢な法衣を身に纏ったヴァルガスが、不敵な笑みを浮かべて鎮座していた。
「……やはり生き返っていたか、ヴァルガス」
カイエンが射抜くような眼光を宿敵に向ける。
「ふふふ……久しぶりだな、カスティエル王子。息災であったか?」
「お前の部下は全員ぶっ殺してきた。観念しろ、ヴァルガス」
「そのような悪態をつくようになるとは。私はそのように育てた覚えはありませんぞ、王子?」
「お前などに、育てられた覚えはないッ!!」
かつての王家教育係——その記憶のすべてを拒絶するように、カイエンの怒号が広間に響き渡った。
「ふん、ぶっ殺してやる!」
エルムが風となり、ヴァルガスへと一直線に突進する。
「エルム、待って!」
サヤの制止も届かない。ヴァルガスは動かず、ただエルムの方をちらりと見た。
その瞬間、エルムの剣がヴァルガスの喉元数センチの位置で、見えない壁に阻まれたかのようにぴたりと止まった。
「ぐっ……がっ……あぁぁぁっ!」
ヴァルガスの視線ひとつで、エルムの体はなす術なく弾き飛ばされ、壁に激突した。
「これはどうだ!」
マルコが電光石火の早業でツインズを投擲する。だが、音速に近い短剣さえもヴァルガスの直前で停止し、無造作に床へ転がった。
「ふふふ……お前たちのような虫けらが、私に触れることすら許されぬ」
ヴァルガスの顔に、歪んだ愉悦が浮かぶ。
その頃、玉座の間に続く通路では、遅れて到着したイゾルデが膝を突き、肩で息をしていた。
「大丈夫ですか、奥方?」
「大丈夫よ……でも、少し休ませて。あなたたちは、先に行きなさい!」
ゴドリックとバルドは力強く頷くと、彼女を置いて玉座の間へと駆け出した。
二人が広間に飛び込んだ瞬間、ヴァルガスがゆっくりと右の掌を一行に向けた。
「絶望に打ちひしがれて、死ね」
次の瞬間、彼の掌から溢れ出した眩い閃光が、世界を白く染め上げた。
物理法則を超越した純粋な破壊エネルギーが、カイエンを、サヤを、一瞬にして蒸発させる。
悲鳴を上げる暇もなくマルコが消え、光に包まれたエルムの姿も掻き消えた。
さらに、通路から飛び出したばかりのバルドとゴドリックも、その光の奔流に飲み込まれていく。
通路の影からそれを見たイゾルデの瞳に、信じられない光景が映る。
自分を信じ、先へ進んだバルドとゴドリックが、光の中で跡形もなく消え去ったのだ。
「そ……そんな……嘘よ……」
イゾルデの表情が、かつてない絶望に歪む。
「ははははは! わぁーはっはっはっは!!」
誰もいなくなった玉座の間。
ただ一人、勝ち誇ったヴァルガスの狂った笑い声だけが、冷たく響き渡っていた。




