第五章:導きの雷鳴と運命の一撃
『ギガフリーズ!!』
アルドの鋭い言霊が戦場に響き渡る。
極限の冷気がガルディスの巨躯を包み込み、その流体金属の体を瞬時に凍結させ、動きを封じた。
「奥方の仇……死ねッ!!」
その隙を逃さず、ゴドリックの巨大なハンマーが唸りを上げて振り下ろされた。渾身のフルスイングが凍りついたガルディスを粉砕し、銀の破片が四散する。
だが、その破片は地面に触れた瞬間に再び液状化し、磁石に引き寄せられるように中心へと集まり始めた。
「……冷気でもダメか」
エルムの声に落胆が混じる。
『落ち込んでいる暇はないぞ、エルム! サンダー!!』
間髪入れずアルドが呪文をコールし、エルムの剣は激しい電撃を纏った。雷鳴と共に銀の流体を切り裂くが、傷口は即座に塞がり、ガルディスは再び不敵な巨漢の姿へと戻っていく。
「どうしたらいいんだ……!?」
素手で魔物二体を沈めたマルコが、焦燥に声を震わせた。物理も、氷も、雷も、決定打には至らない。
しかし、その混沌とした戦場の中で、カイエンだけは静止画を見つめるかのような澄んだ瞳をしていた。
「サヤ……今、見えたか?」
「ええ。……核がある。内部を、驚異的な速度で動き回っているわ」
「ああ。普通に斬ったんじゃ、その『運命』は捉えられない」
二人の視線の先では、ガルディスの内部で高速移動する小さな光点——核——が脈打っていた。
「エルム! 電撃よ! そのまま攻撃の手を休めないで!」
サヤの叫びに応え、エルムが雷を纏った剣で猛攻を仕掛ける。斬りつけても傷を負わせられていないように見えるが、強烈な電撃がガルディスの伝導率を狂わせ、内部の核の動きをわずかに、だが確実に鈍らせていた。
「……今だ。核が肩口にある。仕掛けるぞ!」
カイエンの合図にサヤが短く頷く。
エルムの電撃に合わせ、カイエンがガルディスの右肩へと鋭く斬り込んだ。
核は攻撃を予見し、回避するために下腹部へと急速に移動する。
だが、そこには既に「見えぬもの」を見た少女の刃が待っていた。
「ここよ!!」
サヤの鋭い一閃が、ガルディスの腹部を正確に貫いた。
「な……ばかな……」
ガルディスの眼が驚愕に見開かれる。
自分自身ですら制御し、意識していなかった核の移動先。そこに、まるで最初から知っていたかのように刃が置かれていたのだ。
生まれて初めて味わう、魂を直接削り取られるような致命の痛み。
銀の流体はもはや形を成すことができず、ガルディスは元の大男の死体となって、物言わぬ肉の塊として地面に転がった。
「まさか……ガルディス様が、敗れるなんて……!」
主を失った残党の魔物たちは、恐怖に顔を歪め、蜘蛛の子を散らすように城内へと逃げ去っていった。
「師匠……。確かに見えたぜ。こんなところでまで、あんたに助けられちまうとはな」
カイエンは『レプリカ』の血を払い、遥か彼方の空を想った。
「師匠……ありがとうございました」
サヤも静かに、魂に刻まれた最期の教えに深く感謝を捧げた。
「……行くぞ」
カイエンが王城の重厚な扉に手をかけ、一歩を踏み出す。
「待ってろよ、ヴァルガス」
その後ろを、固い絆で結ばれた仲間たちが続く。
城内にはまだ伏兵の気配が漂っているが、一行の瞳に迷いはない。宿敵が待つ玉座を目指し、彼らは運命の階段を駆け上がっていった。




