第一章:究極の連鎖、戦場の指揮者
夥しい数の黒い影が、港を埋め尽くさんと押し寄せる。その中央で、エルムが静かに、しかし流れるような動作で剣を抜き放った。その佇まいから放たれる異様な殺気と、熟練の戦士のような気配に、隣にいたサヤが息を呑む。
「エルム? どうしたの……あなた、本当にエルムなの?」
「魔剣の呪いは解けた。だが……かつての俺が君にしたこと、その感触は今もこの腕に残っている」
エルムの肉体を通じ、戦士としての「もう一人のエルム」がサヤを真っ直ぐに見つめた。
「本当に、すまなかった。君を傷つけた罪は、一生かかっても償いきれないだろう」
サヤは一瞬、その言葉に驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい微笑を浮かべた。
「ふふふ……エルムは、やっぱりエルムなのね。その力が味方になってくれるなんて、これほど頼もしいことはないわ」
その時、最前線に立つマルコが大空に向けて両手を広げ、喉が張り裂けんばかりの声で究極の呪文をコールした。
「――メテオスウォーム!」
静止していた空が突如として赤く染まり、巨大な隕石群が降り注ぐ。轟音と共に、黒本党の魔物たちは次々と頭上から叩き潰され、肉塊へと変じ果てた。
「くっ……数が多すぎる! これじゃあ焼石に水だ!」
マルコが歯を食いしばる。だが、その横を風のような速さでエルムが駆け抜けた。
『――ニュークリアブラスト!!』
脳裏でアルドが絶叫する。エルムの掲げた剣の先から、半径十数メートルを飲み込む極大の「核の光」が炸裂した。一瞬にして魔物の群れが光に溶け、塵一つ残さず焼き尽くされる。
「すげぇ……これが、赤本の究極呪文か……」
マルコはその絶大な威力に、詠唱を忘れて愕然とした。
「まだいけるか、アルド?」
『ああ、いくらでも来い! ――ニュークリアブラスト!』
アルドが間髪入れずに二撃目を放つ。マルコもそれに触発されるように再び手を掲げた。
「負けてられない! メテオスウォーム!」
凄まじい爆発と隕石の雨が、交互に魔物の軍勢を蹂躙していく。港の石畳は砕け、爆炎が夜の空を焦がした。
「マジックユーザーが二人だなんて、計算違いだったわね」
後方で戦況を見守るカミラが、不快そうに唇を噛む。だが、彼女の瞳からは未だ余裕が消えてはいなかった。
「こりゃ……あの二人だけで、全部片付けちまいそうですね」
バルドが楽観的な声を漏らすが、イゾルデが即座に一喝した。
「そんなわけないでしょ! よく見なさい、まだ半分近く残ってるわよ!」
イゾルデの鋭い指摘に、バルドは背筋を正した。
「バルド、気を抜くな。魔法が途切れた瞬間が俺たちの出番だ。先手必勝で行くぞ!」
「おう! 兄貴!」
バルドとゴドリックが武器を構え直し、突撃の機を窺う。
「マルコ! そっちじゃないわ、もうちょい左! 座標をずらして!」
「な、なんだって!?」
突然のイゾルデの絶叫に、マルコが思わず振り向く。
「いいから、指示通りに呪文を! 行くわよ!」
「え? あ……メテオスウォーム!」
「エルム! あなたはもっと奥よ! 重複させないで効率よく狙いなさい!」
イゾルデの冷徹な状況判断と的確な指示により、二人の魔法は戦場を分散し、より広範囲を、より効率的に攻撃し始めた。重なり合っていた爆鳴が規則正しく戦場を掃除していく。
「なんだか……すごいことになってきたな」
ハンマーを肩に担ぎ直したゴドリックが、呆気にとられたように呟いた。
「いやぁ……こっちサイドで本当に良かったっすね、兄貴……」
バルドは目の前の地獄絵図を眺めながらも、その斧を握る手に一切の緩みはなかった。
「よし……そろそろ出るぞ」
カイエンの眼光が、爆炎の隙間に見える魔物の本隊を捉えた。
「サヤ、遅れるな!」
「ええ!」
カイエンが咆哮と共に魔物の群れへと突っ込み、サヤが鋭い踏み込みでその背を追う。
「マルコ、エルム、俺たちに続け!」
マルコとエルムも呪文を唱えながら走り出す。バルドとゴドリックは、イゾルデを中央に据えた鉄壁の陣形を崩さぬまま、猛然と戦場を駆け抜けた。
風の死んだ港。しかし今、そこには一行の熱き闘志と究極の魔法が渦巻く、凄絶な総力戦の火蓋が完全に切って落とされた。




