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ブラック ブック  作者: さだきち
双星の覚醒:因縁を越える港の咆哮

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第四章:ミスリルの輝き、少年の武装


荒野にぽつんと佇む、エルムが囚われていたはずの小屋。

月明かりの下、黒く美しいドレスを纏ったカミラと、巨漢の紳士ガルディスが、怯える部下の案内でその地下室へと足を踏み入れた。


しかし、そこに広がっていたのはもぬけの殻となった空間だった。倒れた椅子と、鋭く焼き切られた縄の残骸だけが、そこにあったはずの「獲物」の不在を告げている。


「そ、そんな……馬鹿な。あり得ません、見張りもいたはずなのに……!」

カミラの部下が青ざめ、狼狽の声を上げる。カミラは一瞥もくれず、氷のように冷たい声で短く命じた。

「……外に出ましょう」


外へ出ると、青白い月光が三人の長い影を地面に落とした。

「ひ、ひいいっ……!」

部下はガタガタと震え、後ずさる。彼の影に異変が起きていた。カミラの影が意志を持つかのように異形へと膨れ上がり、部下の影の首を掻き切ったのだ。


ゴトリ、と重い音が響く。部下の頭部が音もなく地面を転がり、夜の静寂を汚した。

カミラは顎に手を当てたまま、その無残な光景を退屈そうに見届けると、隣のガルディスに視線を送った。

「どうしたらいいかしら?」


「ふん、不測の事態だな。私は守護隊長だ。さすがに、これは報告せずにはいられない」

ガルディスは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「一旦、ヴァルガス様の下に戻る。……カミラ、後は頼んだぞ」

そう告げると、ガルディスは重厚な足取りで暗い夜道へと消えていった。

「面倒くさいことになったわねぇ」

カミラは深い溜息をつき、残った部下たちを引き連れて、闇の中へと消えていった。


---


アステリアの夜の街。

その一角に、まだ温かな明かりを灯している店があった。重厚な扉を開けると、店の奥から中年の女性店主が顔を出した。

「あら。こんな夜遅くに、子供一人?」


店には剣や盾、槍、斧といった武具が所狭しと陳列されている。エルムはこうした店に入るのは初めてで、珍しそうに、そして少し怖そうにキョロキョロと辺りを見回した。

「あの……鎧って、ありますか?」

「え? 坊やが着るのかい?」

「ま、まあ……」

「そうねぇ……」


店主は奥へ入り、厚手の布のジャケットと、軽くて動きやすそうな革製の鎧を持ってきてカウンターに並べた。

「あんた、いくらくらい持ってるんだい?」

「これで……足りますか?」

エルムはおどおどしながらも、戦士の「自分」が手に入れた金貨の袋を差し出した。

店主が中を確認した瞬間、その目が大きく見開かれた。

「こ……こんなに!? 本当にいいのかい?」

「え、ええ……」

自信なさげではあったが、エルムは「渡す」という意思を真っ直ぐに示した。


「それじゃあ、こんな安物じゃダメね。ちょっと待ってな!」

店主はドタドタと再び奥へ引っ込み、やがて光り輝く「何か」を抱えて戻ってきた。

「……きれいだ」

エルムの口から溜息が漏れる。それは、美しい金属の輪を細密に編み上げた鎖帷子くさりかたびらだった。

「体に合うか、着けてみて」


エルムが身につけると、その鎧はまるで吸い付くように少年の体にぴったりとフィットした。

「ミスリルよ」

店主は満足げに微笑んだ。

「ハーフリング用の小さいやつだったけど、見事なもんでしょう?」

「うん、すごいよ! 軽くて僕でも動きやすい!」

エルムは嬉しくなり、その場でぴょんぴょんと跳ねて見せた。鎧を着ているとは思えないほどの軽やかさだった。

結局、店主のサービスで小さな革のブーツと、軽い兜の代わりとなる鋼鉄のサークレットまで受け取り、エルムは店を後にした。


『悪いなエルム。妙なことを頼んじゃって』

アルドの声が脳裏に優しく響く。

「ううん! これは必要なんでしょ? なんだか、僕まで強くなった気がするよ!」

『重くはないか? 歩きづらくはないか?』

「全然ないって言ったら嘘になるけど、でも、この程度なら平気。いくら歩いても疲れない気がするから、大丈夫だよ」


『そうか、良かった。……じゃあ、ここを出るぞ。港に向かおう』


月光を反射し、銀色に輝く鎖帷子を身に纏った少年エルム。

かつての臆病な面影を残しながらも、その足取りは一歩ずつ、確実に戦士のそれへと近づいていた。彼は夜のアステリアを抜け、全ての運命が交差する港へと走り出した。


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