エピローグ
【連続投稿 2/2】
周りに何も存在しない、真白い霊界。
最近修復――どころかとある妖精種の指導でパワーアップした計器が、かろうじて今自分たちがどこにいるかを教えてくれる。護衛艦リーヴァの艦橋で、艦長のジードは深く溜め息をついた。
「……やれやれ。とんだ旅になったな」
ひとりごとのつもりだったが、副官のオブダイエンが聞きつけて傍に寄ってくる。
「まさかまさか、でしたね。おやっさん、帰ったら一本書けますよ、こいつは」
「ベストセラー間違いなしだな」
「共著に自分の名前もお忘れなく」
きっと同族に話しても信じてくれないだろう。
いと尊き神の血族に助けられ、あまつさえ『ダンジョン』なる幽世で剣を振るってきたなど。ジード本人でさえ夢でも見ていたのではないかと思う。けれどこの腕にはまだ当時の熱が残っている。
知らず、あるはずのない傷を想って頬をなぞった。
「正直、生きているだけでも儲けもんですが、部下たちにとって、良い刺激になったようです。どいつもこいつも、負けて悔しがってますよ」
「ふっ、そいつは良い」
イベントボスとして猛威を振るったジードが一番目立つものの、他の船員たちも特殊個体に扮してダンジョンで暴れ回った。けれどその役目は最終的に倒されることで完結する。忸怩たる思いだってあったろう。
「かくいう自分も。……まぁ、最後に良いものを見せてもらいましたが」
「ほう?」
「故郷に戻ったら、久しぶりにダチと一杯やりたい気分です。おやっさんは――」
言いかけて、オブダイエンがはっと口を閉じた。恐らく、ジードの家庭環境を気遣ったのだろう。彼はジードが既に妻と離縁していること、親権もとうにないことを知っている。それくらい付き合いが長い。
「手紙を、な」
「はい?」
「書こうと思うんだ。……今更何を、という話ではあるんだが」
異郷の剣士と斬り結び、見せつけられた過去の後悔。振り返るとジードは本当に古臭く、つまらなくて――何よりも、何一つ伝えていなかったことを思い出した。あの時、彼女が言っていた「つまらない」という言葉の意味。
ずっと、仕事一辺倒の自分を揶揄した表現だと思っていたが、あるいはもっと別の意味があったのかもしれない。
「それは……その……」
「ああ、いい。言わなくても分かっている。たぶん、捨てられて終わりだろう。それでもいいんだ。むしろ、それがいいんだ。所詮自己満足の産物よ」
「……手紙ってところがまた、おやっさんらしいですね」
「ふん、俺は『骨董品』だからな」
「まだ覚えてたんですか、そのたとえ」
湿っぽい話は終わりとばかりに、ジードはにやりと口角を上げた。
「そうして書くものを書いたら、働いて、休暇だ」
「いいですね。行先はもうお決まりで?」
「――地球」
既に見えなくなった青い星。
その情景を瞼に映し、初老の小鬼は言葉を紡ぐ。
オブダイエンもまた、思いだすように目を細めた。
「そん時ゃ、絶対声かけてくださいね。自分もお供しますよ、ダンジョンにだって」
人生は出会いと別れ。
辛い別れもあれば、思わぬ出会いも、嬉しい再会だってあるだろう。
その出目は人によって大きく偏るけれど。
「ああ、甘いものを忘れるなよ。きっとお喜びになるからな。あの一風変わった、どこか目の離せない……羽神様は」
いつかまた、会う日まで。
遠く離れた宇宙から、願う――
第五章「小鬼たちの哀歌」終。
間章へ続きます。
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