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抑えてきた思いを、今夜(3)

 ――セーラがカティアとロザリンドに、これまでのことをすべて打ち明けた日の夜。


 リオンはひとりで、聖堂の礼拝堂の椅子に腰掛けていた。

 辺りは静けさに包まれていた。


 また会いにきたが、セーラの姿はどこにもなかった。

 今夜だけは外に出ていて戻らないのだと妖精たちから教えられたのは、リオンがここへきた後だった。


 入れ違いになってしまったが、だからといっても、そのまますぐに王宮に戻る気にはなれかった。

 どこへ行ったかは聞かずとも、セーラには常に妖精たちがついている以上、心配する必要はないことはわかっていた。


 ――もし、何かある時には、また俺を呼ぶだろう。十三年前のあの時のように。


 夜のしじまの中で、セーラがいなければ、ここが元々はこんなふうだったということを思い出す。

 セーラと再会する以前の自分にはそれが心地よかった。


 初めて思いを伝えたあの夜、リオンは自分が考えていたよりも、セーラに思われていたことを知った。


 ――潤んだ目で、腕で抱く時には大切に包み込まなければ壊れてしまいそうな細い肩を震わせて、セーラは俺を見ていた。


 月明りのもとで、髪と両眼が虹色に変わっていくセーラを見た。


 そして妖精たちの力を介して聞かされた小さな声。

 セーラの中にある思い。


 ――わたし、ようやく長く居続けられる居場所を見つけたかと思ったのに……。


 自分のすべてが覆されて根底から崩れてしまうことを恐れて、そう嘆いていた。


 女神や妖精たちはセーラ自身が望まない運命を課した。

 これまでの意味のすべてを知った時、同時にリオンの心の内にあるものは、それまでとは一気に変わっていった。


 ――セーラはもう俺にしか守れない。


 そう思うと、これまでには考えられなかったほど、心が今のこの聖堂の中の静寂に似たもので満たされていた。


 花も煌びやかな贈り物もないまま、セーラに求婚した。

 立場など何も考えないまま、ただひとりの男として。


 運命だというのなら、いずれまた必ず会えるのだろう。

 十三年前はそう考え、一旦離れた時から月日は流れ、ようやくわかった。 


 ――俺がこの立場に生まれたのも、すべてあなたのためだったんだろう。


 そのうえで、リオンはこれから先のことを考えていた。

 自分だからこそできることを。

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